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『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』文章保管用ブログ。
Posted by - 2024.11.22,Fri
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Posted by ささら - 2009.05.03,Sun

小さな音楽1の続き。


 仕事に出ていた五人が研究所に帰って来ると、ちょうど博士とカイトは出かけるところだった。
「どこ行くんだよ」
「ちょっと用事~。メイコ、あとの事よろしくー」
 博士はそう言って車に乗り込む。カイトが助手席から、ご飯は冷蔵庫にあるから温めてねと言うと、車は徐々に加速していった。
 リンとミクが無邪気に走り去る車両に手を振り、ルカがため息をつく。その横で、レンがぎゅっと拳を作る。
「とりあえず、ご飯にしましょうか」
 メイコの号令で、皆、一様に建物に歩き出した。
 門のところにいる警備員を含めなければ、今研究所の中にいるのはボーカロイドだけだが、一夜であれば不便はないだろう。日常生活に関する事はきちんと教育されている。日常生活の教育や刷り込みを行うのは会社の方針であるし、大抵のアンドロイドはそうなっているのだ。
「この番組の構成だとさぁ……」
「わたくしはそうは思いませんわ。このように見えるのであれば……」
 食事の後でもまだ仕事の話をしているミクとルカに苦笑したメイコは、リンが風呂に入っているのを確認した後、レンを探しに行った。
 練習でもしているのかと思い練習室を覗くが、明かりは付いていない。なら自室に戻っているのかなとレンの部屋をノックしてみたが、返事はなかった。
 どこに行ったのかと首を捻ると、近くの部屋の扉が少し開いている事に気が付いた。
「カイトの部屋……?」
 静かに覗く。
 部屋の中にレンがいた。彼は壁際のデスクに置かれたノート型のパソコンに向かっている。
 流石にそれはマナー違反だ。メイコはドアを勢いよく開けた。
「こら!何してるの!」
 大きな音とメイコの声に驚いてレンはうわぁと声を上げ、慌ててノート型のパソコンの画面をかばう。
「ひとの部屋のものを勝手に使ったらダメでしょう!」
 ベージュ色のカーペットを強く踏みしめて部屋の中に入ってきたメイコが、レンに一発拳骨でもくれてやろうかと振りかざすと、レンは縮こまりながら画面を指差してこう言った。
「昼間の事調べようと思ったんだよ!」
「カイトのを使う事ないでしょう!」
「本人のパソコンなら何か残ってるかと思ったんだ!」
「パスワードは!?」
「昨日拾った。つーか、パスワード作成表を落とす方が悪いだろ!」
「言い訳しないの!」
 そう言ったメイコは、怒りながらも画面をまじまじと見てしまった。なんだかんだと言って、メイコも昼間の事が気になっているのだ。
「……はぁ……。……それで、何かわかったの」
「メイコ姉も気になってるじゃんか。……ちょっと検索してみた。カイトはフィルターないのな」
 ほとんどのアンドロイドには、厄介な影響を防ぐ為、情報取得に制限をかけている。特にインターネットなどの通信ネットワークは、規制が少ない為か、閲覧そのものを制限されている事が多い。だが、制限とは言っても、実情は口頭で注意されている程度である。それでもそれが破られないのは、アンドロイドが命令をきいて行動する機械だからだ。
 メイコたちボーカロイドは、博士などの優先命令権所持者の許可があった時か、ボーカロイドが所持している機械でならば閲覧が許可されていた。この時、メイコたちの認識では、カイトはボーカロイドである。自分たちと同じ存在だと認識していた。だから、一種の特別扱いにレンは不満を隠せないし、メイコは眉をひそめるのである。実のところ、ボーカロイドの定義も含め、なんのためのアンドロイドなのかは、カイト自身が意図的に直視を避けていた問題なのだが、メイコたちは知る由もない。
「どうしてか、閲覧制限自体がないみたいだからね。しかし、フィルターがないパソコンだと、こんな沢山の結果が出てくるのね」
「その閲覧制限ってのもよくわからないんだけどさ」
「性の対象物にされる事による悪影響がどうとか、まあ私も実際に見た事がないから」
「オレたちはさ、なんにも知らないようにされてるんだよ、結局」
 感慨深くそう言って、少しの間黙り込んだ。キーを操作する音だけが響く。
「ああ、これがかの有名な動画サイトね。話には聞いてたけど初めて見る」
「オレもさっきはじめて見たんだ。それで、この動画が」
 画面が切り替わり、動画を読み込んでいる。数秒で読み込みが完了した。
 昼間聞いたあの曲に、シンプルな映像があわせて流れる。はじめに曲を聞いた時にも思った事だが、プロではないかと言われる理由はよくわかる。楽曲も映像も、全くの素人が作ったのものではない事くらい、メイコにもレンにもわかる。これは‘わかっている’人間の仕事だ。
「本業じゃないかもしれないけど、業界の人のようね」
「だよな。それに、あっちは知らないって言ってたし、カイトで確定じゃないかなって思う」
「本人かどうかは……他に証拠があれば」
 メイコが言ってレンからパソコンのコントロールを奪うと、何か探し出した。
「何探してるんだ?」
「メールかなんか、連絡を取った形跡がないかと思ってね」
「あ、それなら」
 レンが指したプログラムをロードしてみると、確かにメールを閲覧出来るようだ。
「いっがい。結構外部と連絡取ってんじゃない。……んー……」
 リストを上からざっと眺める。文字が多い上、メイコは初めて触れたものだから見方がよくわからない。
「メールなんてよく知ってたわね、レンは」
「博士のヤツ、一回触らせてもらった。なんかチェックすんの大変だから手伝ってとか言われてさ。機密とかいいのかよって聞いたら」
「聞いたら?」
「メールで機密情報やり取りはしないって」
「はあ」
 そうなの、と言ってため息が出る。つまり、やはり触れる情報を選りすぐっているわけだ。研究所として当たり前の事だろうが、当人たちとしてはいい気はしない。
 じっと見ていると、気になるタイトルが目に飛び込んできた。
「歌の収録に関して?」
 誰のだ?
「……メイコ姉ナイス。ビンゴだ」

 時間は僅かに遡る。
 メイコが部屋を出て行った後も、ずっと仕事の話をしていたミクとルカは、リビングの扉が開く音がしてそちらを向いた。
「ミク姉、ルーちゃん、どっちかお風呂どーぞ」
 リンは身体から湯気を立たせ、顔は真っ赤になっている。
「早いねー。どうする?」
「先輩、お先にどうぞ」
「そ?わかった」
 ミクは用意をしに自分の部屋へ。そして部屋に残されたルカに、リンが肩にかけたタオルで髪の毛を拭きながら聞く。
「メイ姉とレンは?」
「先ほどレン先輩はどこかへ。自室ではないでしょうか。メイコ先輩はレン先輩を探していましたよ」
「何してるんだろ」
「わたくしにはわかりかねます……」
 リンもルカも首を傾げた。
「博士もいないし、カイにぃもいないし……つまんないなー」
 ぽつりとそんな事を言ったリンは、ソファに腰掛けると、つまらなそうに足をぶらぶらとさせた。
 ルカはどう慰めようと考えて、何か飲み物を出す事にした。
「何か飲みますか?」
「うーん、なんかジュースがあれば。ルーちゃんも一緒に飲もう!確か、少ししたら音楽番組やるはずだから」
「はい」
 静かな時間が続く。ルカが冷蔵庫からジュースを取り出して用意すると、リンが楽しそうにテレビをつけた。音量は小さくして、ルカを待つ。
 ルカから渡されたグラスを両手で支えて、リンがふっと笑う。
「長い休みが近いからさ、皆でどこから出かけたいな」
「休み?」
「そうそう、連休が五月の初めにあるの。今年は、去年より仕事が多くて短くなりそうだけど、でもまとまった休みは取れるって博士がさ」
「お休み、ですか」
「嫌?」
 リンは隣に座ったルカの顔を覗き込む。ルカは、考えをめぐらせてから、いいえと首を振った。
「でも、仕事がないのは嫌かもしれません」
「それはそうだよー。わたしも仕事できないのは嫌だな」
 ボーカロイドだもんね、と、リンは言った。ルカも首肯すると、自分のグラスに口をつける。
「少し休んだらもう仕事ばっかりだよ。夏はコンサートとかイベントとか多いし、夏の前はその準備だし。そうだ、ルーちゃんは単独コンサートするんでしょ?」
「はい、皆様のお陰ですわ」
「わたしも夏にやる事になってるんだ」
 完全な単独でのイベントだ。ひとりでやる事にも慣れてきたため、レンとは別行動が多くなった。それでリン自体に多くファンがついたらしい。精神面の不安定さも少なくなって、ファンも多くなったのだから、ひとりでイベントの看板を張っても大丈夫だと判断されたらしく、この夏にコンサートが企画された。各都市の大き目のホールを回る事になっていた。
 ルカの単独コンサートは、実はルカの起動前から企画されていたもので、成功が期待されていた。リンは、その期待が重荷になるのではないかと心配しているのだが、ルカはむしろ大きな仕事を任された事に喜んでいた。
「成功させてみせます」
 当然だというように彼女は言った。自信のある顔だ。
「ルーちゃんのそういうとこすごいよね」
 わたしとは大違いだとリンは思った。
 話していると、自分の弱さをたまに思い出すのがリンには辛かった。彼女のタフさはうらやましい。自信を持っていられる事がうらやましかった。
 褒められても、喜ぶ人の顔を見ても、どこか自分に自信が持てない。それは、自分の精神設計の問題だと言う事をリンはわかっている。あまり成長してないのかなと不安になり、他人に相談したくなる。
 しかしレン辺りに言うと怒られるし、ミクやメイコ、そして多分ルカに言えば必死に慰められてしまう。その行動が自分にとっては更に辛い。この感覚をわかると自信を持って言ってくれるのはカイトだけだろう。
「リン先輩は失敗なんてしませんわ。ボーカロイドですもの」
 ルカはリンの思考を読んだわけではないだろうが、微笑んでそう言った。リンは胸の辺りがぽかぽかと熱を持った気がした。勇気付けられている、そうなんだろう。
「うん、ありがと」
 短くお礼を言ってから、少し内容が減ったグラスを傾ける。こぼれないくらいのところで止めて、内側のジュースを回す。オレンジ色の液体がくるくると回っているように見えた。
 それから、テレビ画面に映る番組について話し、何気ない時間が過ぎていく。二人目のゲスト出演者が挨拶した時、車のエンジン音をリンとルカの耳が感じた。独特の、駐車する時の音だ。
 この時間に入ってきたという事は、博士とカイトだろう。リンは立ち上がって玄関に向かう。ルカもそれにならった。
 早足で玄関に向かうと、確かに博士とカイトが外出から戻って来ていた。
「おつかれ~、仕事はどうだった~?」
 玄関先で博士が聞くと、リンが身を乗り出した。
「今日は二人ともずっとケンカしてたよ」
「け、喧嘩ではありません。あれはれっきとした仕事上の会話で」
「うん。仕事はちゃんとやったよ!」
 フォローのようにリンが言うと、ルカは恥ずかしそうに下を向いてしまった。そんなルカに博士は声を上げて笑った。
「ま、大丈夫そうだね~。喧嘩するほど仲がいいって言うしー……ところで、ミクたちは?」
「レンとメイ姉は二階の自分の部屋だと思う。ミク姉はさっきお風呂入る用意するって言ってたよ」
「じゃあカイト様子見てきてー」
「わかりました」
 それまで黙っていたカイトがうなづいて二階に移動する。
 ルカとリンは今日の出来事を博士に話している。母親に学校の報告をする子供のようだ。博士としては、親みたいだと思われているようで、全く悪い気はしなかった。
 リンの失敗談にルカと博士の二人が笑い声を上げた時、二階に行ったはずのカイトが慌てた様子で玄関に戻ってきた。
「どしたのー?」
 軽い口調で博士が聞くと、カイトは眉根を深く寄せてこう言った。
「まずい事が起こりました、影響が出始めています、急いでください!」
 何の事かわかったらしい博士は、詳細も聞かずに走り出した。

 遠くから足音が聞こえる。人の足音だ。誰だろう。さっき誰かが来たような気がするが、メイコにはそれさえうまく記憶出来ていなかった。
 うつぶせになった身体は妙に動かせない。その上何故か震えているのだ。崩れたようにバラバラになった回路を繋ぎ合わせて、鈍い感覚を得ながら頭を上げた。
 すると、ぼんやりと周りが見えてきた。
 レンがうずくまっている。その近くに倒れたままのミクが不気味な光を放つ瞳をこちらに向けてきていた。その発光がまずいのだとメイコがやっと思い出し、腕に力を入れる。痺れる感覚もなく、動いた感覚もしない。だが、どうやら動かせてはいるらしいと持ち上がる上体で判断した。
「ミ、ク……」
 掠れた自分の声に驚いた。こんな、自分が意図しない掠れ声などはボーカロイドが出すべきものではない。
 少しずつ、何があったのかをメイコは思い出し始めていた。
 突然カイトの部屋に入ってきたミクに驚いて、それで動揺したのだろう。何でもないと言いながら、その場はレンに任せてリビングに戻ろうとしたのだ。音と悲鳴を聞いた時には既にミクが倒れ、レンが力なく座り込むのが見えていた。
 そして、自分も何かを見てしまったのだ。
 ミクが来た後、すぐにパソコンの電源を落として部屋から出て行かせればよかったのだ。それに、調べたい事は大体調べ終わっていたのだ。
 とにかくミクとレンを助けなければと、メイコは床を這う。身体を引きずる音が、やたらと耳の奥に響く。全身がだるい。感覚なんてない。
 足音はさっきよりずっと大きくなっていた。近づいてきたのだ。ミクたちの方へはちっとも近づけないのに、その足音はどんどん大きくなる。
 苦しくて唇を噛み、うなるような声を上げた時に、誰かが自分の両肩に手を置いた。
「……は、か……」
 口が動く。顔を見ようと首を動かすが、僅かな速度でしか動かない。自分の身体が命令を聞かない。
 博士が覗き込んできた。いつもおちゃらけた態度を崩さない博士が、真剣に、心配そうな顔だ。慌ててもいるようだった。
 メイコはもう一度博士の名前を呼ぼうとした。博士は、やさしく微笑んだ。それでも、眉間の皺は取れないままだ。
 博士はここにいるはずなのに違う足音が、今度は複数の足音が聞こえる。
 立ち止まった。部屋の入り口の方を見ると、カイトと、その後ろにリンとルカがいる。
 リンの顔色が変わった。あの表情は恐怖だ。ああ、レンを見たんだと思った。まだリンはレンを必要としている。レンの状況を見て、普通でいられるはずがない。
 そしてリンが駆け出そうとした。それを、ちょうど入り口を塞ぐように立っていたカイトが腕で制止した。
 暴れ始めたリンが何か言っている。それにルカが反論し羽交い絞めにし始めた。会話は聞こえているはずだがよくわからない。耳に入ってきても認識できない。
 博士がレンとミクの方へ向かった。ルカが未だ暴れるリンを引きずって廊下の向こうへ隠れると、カイトが駆け寄ってきた。
 メイコは自分が空中に浮いたような感覚を受けた。目線が高くなる。抱きかかえられたのだろう。こう見えてカイトも平均的なアンドロイドとしての力は持っている。
 だんだんと意識が遠のく。メイコの意識は、そのまま深い闇へと飲み込まれた。

 アンドロイドが実用化されると、予想の範囲内ではあるが、目的外の使用例が大量に発生した。
 つまるところ、セクシャロイドとして使用する人間が多かったのである。もちろん、いくらロボットとはいえ余りにも非道だ、などの意見もあったのだが、それ以上の問題が発生した。
 精神回路への負担が大きすぎて、自意識が崩壊してしまうケースが多発したのだ。
 多数の対策が練られ、多岐に渡る対処を行い、論理、倫理、社会への影響を加味した結果出された結論が、セクシャロイド以外への性的接触の禁止だった。
 それは多少の効果を上げた。少なくとも、正規に運用されているアンドロイドに関しては、精神回路への負担による廃棄件数は減少していた。
 アンドロイド側に情報取得の制限を課しているので、多くの場合は問題が発生することはない、はずだった。
「原因はこれだな」
 メンテナンス室での処置後、現場に戻ってきた博士とカイトは嘆息した。リンはルカに任せている。彼女の物分りが良くて助かったと博士は考えた。
 メイコたちが倒れた原因は、現場の状況から容易に察しがつく。
「僕のミスです」
「管理責任は僕ら研究員が負う」
「パスワードの管理は自体は僕が行っていました」
 相手が何が言いたいのか、双方理解している。本社への第二報を行う前に、決めておかなければならない事がある。
「博士や所長が責任を取る事を免れないのはわかります。しかし、せめて分散させないといけません」
「押し付けろと言うのかい」
「研究所から博士がいなくなってしまえば、一番困るのはミクたちであって、会社でも博士でもないんです」
 カイトの言い方は嫌なものだった。言い切って突きつける態度は反感を買う。
 しかし、一番初めにカイトの意見に同意するのは博士だろう。
「僕は、レンとメイコに調べ物を頼んでいた。パスワードと使い方は事前に教えていた。フィルターをかけずにパソコンを預けた。……これでいいですね?」
 淡々と言う彼に顔をしかめて、しかし駄目だとも言えない自分に、博士は嫌悪感を覚えた。
 ため息をつくが、それでカイトの意見以上に有利になる方策も思いつくわけもなかった。


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