『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』文章保管用ブログ。
Posted by ささら - 2011.01.17,Mon
大きなガタイをこじんまりとさせて、借りてきた猫のように神妙にしている大山に、博士と呼ばれている人物、山田は大きくため息をついてこう言った。
「うん、まあ、そこまでさあ、ダメってわけじゃないし、別にいいんだけど」
「ほ、本当ですか!」
「ミクはそれでいいんだけどね」
「はあ」
「つまりね、他の子たちと時間を合わせるんだったら、ミクから言って、調整して欲しかったんだよね。まあ、大山さんに相談したから、及第点か」
努力してみる姿勢?っていうのは評価するし、などと言いながら、博士はもう一度ため息をついた。
「とにかくそういうわけだから、大山さんからそれとなくヒントあげて下さい」
「ヒント、と言いますと、自分で調整するという話?」
「そ。行ってらっしゃいって言う条件はね、ミクが自分で考えて、計画立てて、相手を見つけて交渉して、最終的にミクと一緒に行くって言う子が僕のところに来れば、快く送り出そうと思ってたんだぁ……という事をそれとなく伝えて欲しいなーと」
大山はまたも、はあ、と曖昧に返事をした。
「あ、あと、次の日が休みの日じゃないとダメだからーとかなんとか言っとくと。ここまでいくとヒントじゃなくて答えだけどねー」
甘いねえ僕もーと楽しげに呟いて、すぐため息をついた。
「お疲れですか?」
「大山さんこそ、こんな夜遅くまで、あの子達に付き合う事ないんだよ」
「いえ俺、私は、関われるだけで嬉しい」
「気持ちはわからないわけじゃないけど、そんな事してると潰れちゃうよ」
微笑んでいるはずの博士は、随分と疲れた顔をしている。この人は遠慮というものがないようで、長い付き合いじゃない人間相手でも、体調を偽らない。仕事柄と性格のお陰で、つい大丈夫だと答えてしまう大山には、それがいい事だとは思えなかった。そのため、はあ、と曖昧に返事をした。
博士の部屋を辞すると、大山は研究所を出て、まっすぐ自宅へと向かう。
その道すがら、彼女にどう切り出すのがいいか、それを考えてしまっていた。
大山はそういう交渉事とは無縁の人生を歩んできたし、口下手である。上手く伝えられる自信などない。
さて、どうすればいいと帰宅後も考えてしまい、気がつけば、いつの間にか朝になっていた。
いくらか寝た気がするが、意識をふっと失い、ふっと取り戻したようで、睡眠したかどうかの事実さえ曖昧だ。しかし、眠気はあるものの体力は回復していた。ある種の特技である。
この日、ミクは午前中は取材、午後は収録、夜にラジオ出演を予定しており、数分単位のスケジュールである。警護の仕事をする大山が遅れるわけにはいかないので、余裕な時間に家を出て、研究所に向かった。
借りたアパートはかなり近いので、競歩に近い動きで運動量を保つ努力をする。多分、多少は効果があるだろう。
途中の杉並木と小学生の群を横目に、無心に足を動かしていると、見慣れた人物が先の方から歩いてきた。
彼女たちの容姿は本当に目立つ。
「ルカさん。おはようございます」
「ああ大山さん」
彼女は普段通りの調子で挨拶をしてきた。
「おはようございます」
そして会釈をし、沈黙した。
このままではすぐに立ち去ってしまうなと大山は思った。しかし、多分これから仕事だろうし、引き止めるわけにもいかない。更に言えば、彼は何を喋っていいのかわからない。
ルカはじっと大山を見、動かない彼に小首を傾げた。彼女が引き止められたと思っている事に大山は気がついていないのだ。
少々長続きした沈黙を破ったのはルカである。
「そういえば、大変そうですね、仕事」
本当にそう思っていたわけではない。ただ話す事が欲しかったで、こんな話題を振った。昔、博士に言われたからだ。会話で困ったら最近忙しそうですねと言えばいい。大抵はぼちぼちだよと返事が来るから、と。確かにその通りだった。
「まあまあですよ。ルカさんこそ、人気出て、休んでいる暇もないんじゃないですか」
「それなりに休みは頂いていますので。でもそうですね、少々減ったかもしれません。でもわたくしとしては、これくらいの方が嬉しい」
はあなるほど、忙しい方が嬉しいのか。ボーカロイドはそういうものなのかもしれないと、大山は思った。人間にもそういう人種はいる。ワーカホリックというやつだ。あまり他人の事は言えない程度に、自身も仕事中心の生活をしているが。
「適度に休みも必要ですよ」
どこかで聞いたような言葉を投げかける。
「ミクさんも休みたそうでしたし、あまり忙しいのも」
「先輩は研究所で一番忙しいですからね」
「ですから、今度休みを貰って、遊びに行こうと計画しているのですが。そうだ、ルカさん、良ければどうです。レジャーランドや、山、海なんかは」
ちょっとした思い付きで大山は言ったのだが。
それに対するルカの反応は、大山が予想していたものとは違っていた。
次:ミクとルカの長い一日3
「うん、まあ、そこまでさあ、ダメってわけじゃないし、別にいいんだけど」
「ほ、本当ですか!」
「ミクはそれでいいんだけどね」
「はあ」
「つまりね、他の子たちと時間を合わせるんだったら、ミクから言って、調整して欲しかったんだよね。まあ、大山さんに相談したから、及第点か」
努力してみる姿勢?っていうのは評価するし、などと言いながら、博士はもう一度ため息をついた。
「とにかくそういうわけだから、大山さんからそれとなくヒントあげて下さい」
「ヒント、と言いますと、自分で調整するという話?」
「そ。行ってらっしゃいって言う条件はね、ミクが自分で考えて、計画立てて、相手を見つけて交渉して、最終的にミクと一緒に行くって言う子が僕のところに来れば、快く送り出そうと思ってたんだぁ……という事をそれとなく伝えて欲しいなーと」
大山はまたも、はあ、と曖昧に返事をした。
「あ、あと、次の日が休みの日じゃないとダメだからーとかなんとか言っとくと。ここまでいくとヒントじゃなくて答えだけどねー」
甘いねえ僕もーと楽しげに呟いて、すぐため息をついた。
「お疲れですか?」
「大山さんこそ、こんな夜遅くまで、あの子達に付き合う事ないんだよ」
「いえ俺、私は、関われるだけで嬉しい」
「気持ちはわからないわけじゃないけど、そんな事してると潰れちゃうよ」
微笑んでいるはずの博士は、随分と疲れた顔をしている。この人は遠慮というものがないようで、長い付き合いじゃない人間相手でも、体調を偽らない。仕事柄と性格のお陰で、つい大丈夫だと答えてしまう大山には、それがいい事だとは思えなかった。そのため、はあ、と曖昧に返事をした。
博士の部屋を辞すると、大山は研究所を出て、まっすぐ自宅へと向かう。
その道すがら、彼女にどう切り出すのがいいか、それを考えてしまっていた。
大山はそういう交渉事とは無縁の人生を歩んできたし、口下手である。上手く伝えられる自信などない。
さて、どうすればいいと帰宅後も考えてしまい、気がつけば、いつの間にか朝になっていた。
いくらか寝た気がするが、意識をふっと失い、ふっと取り戻したようで、睡眠したかどうかの事実さえ曖昧だ。しかし、眠気はあるものの体力は回復していた。ある種の特技である。
この日、ミクは午前中は取材、午後は収録、夜にラジオ出演を予定しており、数分単位のスケジュールである。警護の仕事をする大山が遅れるわけにはいかないので、余裕な時間に家を出て、研究所に向かった。
借りたアパートはかなり近いので、競歩に近い動きで運動量を保つ努力をする。多分、多少は効果があるだろう。
途中の杉並木と小学生の群を横目に、無心に足を動かしていると、見慣れた人物が先の方から歩いてきた。
彼女たちの容姿は本当に目立つ。
「ルカさん。おはようございます」
「ああ大山さん」
彼女は普段通りの調子で挨拶をしてきた。
「おはようございます」
そして会釈をし、沈黙した。
このままではすぐに立ち去ってしまうなと大山は思った。しかし、多分これから仕事だろうし、引き止めるわけにもいかない。更に言えば、彼は何を喋っていいのかわからない。
ルカはじっと大山を見、動かない彼に小首を傾げた。彼女が引き止められたと思っている事に大山は気がついていないのだ。
少々長続きした沈黙を破ったのはルカである。
「そういえば、大変そうですね、仕事」
本当にそう思っていたわけではない。ただ話す事が欲しかったで、こんな話題を振った。昔、博士に言われたからだ。会話で困ったら最近忙しそうですねと言えばいい。大抵はぼちぼちだよと返事が来るから、と。確かにその通りだった。
「まあまあですよ。ルカさんこそ、人気出て、休んでいる暇もないんじゃないですか」
「それなりに休みは頂いていますので。でもそうですね、少々減ったかもしれません。でもわたくしとしては、これくらいの方が嬉しい」
はあなるほど、忙しい方が嬉しいのか。ボーカロイドはそういうものなのかもしれないと、大山は思った。人間にもそういう人種はいる。ワーカホリックというやつだ。あまり他人の事は言えない程度に、自身も仕事中心の生活をしているが。
「適度に休みも必要ですよ」
どこかで聞いたような言葉を投げかける。
「ミクさんも休みたそうでしたし、あまり忙しいのも」
「先輩は研究所で一番忙しいですからね」
「ですから、今度休みを貰って、遊びに行こうと計画しているのですが。そうだ、ルカさん、良ければどうです。レジャーランドや、山、海なんかは」
ちょっとした思い付きで大山は言ったのだが。
それに対するルカの反応は、大山が予想していたものとは違っていた。
次:ミクとルカの長い一日3
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