ミク視点の短編。
カイトは腹黒なわけではなく素です。たぶん。
カイトさんは最近裁縫始めた。実は結構器用だったみたいで、あまり経ってないのに小さいものなら結構作れるようになっている。
今度なにか服に挑戦しようかなと所長(型紙を作っているのは所長だ。この人は趣味がお裁縫で、カイトさんに裁縫を勧めたのも所長)とお話している。
そんなお話中の二人の前のテーブルには、手作りの茶色のクマのぬいぐるみがぽつんと座っている。今日の成果がこれで、いわゆるテディベア。大きさは私が抱えられるくらいで、ちょっとへにょっとした顔がかわいい。
ぬいぐるみを見て「かっわいー!」とリンちゃんが言えば、レンくんが「ふーん、まあいいんじゃない?」と返す。レンくんが冷たいみたいにも見えるけど、こう返すときはリンちゃんの意見にすっごく同意してる時なんだって最近わかった。表現がちょっとわかりづらいんだよね。
「とりあえず道具片付けるから、ミクとリンとレンで名前お願いね」
カイトさんが言った。
名前?
「ぬいぐるみにも名前が必要じゃないかな?」
必要かなぁ?と思っていると、メイコ姉さんが部屋に入ってきた。今日はテレビの収録で歌とトークの番組を撮ってきたみたい。
メイコ姉さんはぬいぐるみを「あら、かわいいわね」といって眺めている。
「ちょっとこの辺の縫い目がよれてるわね。でも愛嬌ある顔してる」
気に入ったみたいだ。
さて、まあ必要かどうかはともかく、名前を決めることと相成った。
「くまさん、とか」
ちょっとそのまますぎるかな。
「プーさ」
「リンそれはダメだ、危険すぎる」
「なによー、じゃあレンは何かあるの?」
「うーん、ルーズベルト」
「いかつい……」
確かにちょっといかつい感じだと思っていると、メイコ姉さんが、エピソードにちなんだ名前ねと言った。
「テディベアのテディは、ルーズベルトって人の通称からきてるのよ。レンは良く知ってたわね」
へー、知らなかった。
物知りだなーとレンくんの方を見ると、前に調べただけと言い赤い顔を背けた。拗ねちゃったみたい。恥ずかしがらずに胸張っていいと思うんだけどな。
リンちゃんが、レン真っ赤ーとけらけら笑ってからかう。レンくんは余計顔を赤くしてうるせーと一言。
「なんでルーズベルトなのにテディになるの?」
と、なんとなしに思ったことを口にするとメイコ姉さんが、
「セオドアだからよ。読みを変えるとテオドア・ルーズベルト。テオドアがテッドに短縮されて、さらにテディになったというわけ」
メイコ姉さんの言葉にレンくんがいまだ顔を背けつつ補足。
「キャサリンの通称がキティになるのと同じだよ」
「なになにさん、みたいなものかな」
「それは敬称じゃないかしら」
うーん、違いがあまりわからない。
「さんってミスターとかミスみたいなものだから。こっちで通称というと、そうね、ミクならみーとかみっきゅんとか。ううん、ミクもリンもレンも、音と文字数が少ないから通称は必要ないわね。カイトあたりになるとカイとか」
「それ一音しか短くなってないよ」
「他の国の言葉では一音一文字とは限らないから、一音でも短くしたいのよ。私だと……メイ、か」
「メイちゃん?」
「似合わないわー」
メイコ姉さんはそういって恥ずかしそうに笑った。私たちもつられて笑う。
でもかわいい声を出してるときのメイコ姉さんならメイちゃんって感じだなと思っていると「結構似合うと思うけど」という声が聞こえた。カイトさんだ。道具をしまい終わったらしい。
「この前に出した曲なんかはメイちゃんというか、めーちゃんって感じだったよ」
新曲がずいぶんかわいい声で歌う歌で、メイコ姉さんは柄じゃないわねと苦笑していたけど、私はとっても似合っていたと思う。
私はそれを思ってカイトさんの言葉に頷くと、リンちゃんとレンくんも同意した。
メイコ姉さんは私たちの反応に、ええーと声を漏らし、
「そういう通称はミクやリンが呼ばれるべきね。私はただのメイコでいいわ」
と、頭を掻いてため息をついた。
そんな態度のメイコ姉さんに、そうかなぁとカイトさんは言って、ふわっという擬音が似合いそうな表情で笑った。なんとなく、背景に花が見える。しかも安っぽい感じの花が。
「めーちゃんって似合っててかわいいのに」
「似合ってないしかわいくない!もう」
「それにかわいいの好きなんだよね」
「はあ?なんで!」
「だってめーちゃんの部屋にネコのしゃし」
「ちょっとあんたなんでそんなの知ってるのよ!というかドサクサに紛れてめーちゃん呼ぶな」
「いいじゃない、めーちゃん」
「こらぁ!」
……メイコ姉さん押されてる。いや押してるカイトさんがすごいのかな。ぽかんとした顔で二人を見る外野三人の図は研究所にこのメンバーが来て以来はじめてじゃないかしら。
大体数分、二人はそんな言い争い?をしていたが、ほほをほのかに朱に染めつつメイコ姉さんが「ああああ!もういいわよそれで!」と言って部屋を出て行ったため終了となった。これはカイトさん勝利?
「あ、怒っちゃった」
リンちゃんがカイトさんのその言葉を聞いて、「あれは怒っちゃったというか……」とメイコ姉さんが乱暴に閉めたドアを見ながらこう続けた。
「カイトにぃって案外人からかうの好きだよね」
たしかに、結構ノリノリだった。意外な一面を見た気がする。
カイトさんは心外そうに首をかしげる。
「からかってるつもりはないんだけど、外からだとそう見えるのか。そうだ、ぬいぐるみの名前どうなったの?」
あ、忘れてた!
結局みんなで話し合ってるところに博士が入ってきて、「眉の形がベティちゃんに似てる」という意見からベティに決定した。
後でこっそりメイコ姉さんにそれを伝えに行くと、ずいぶん古いキャラクターだと言っていた。なんでそんなこと知っているんだろう、というか、ベティちゃんってだれ?
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