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『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』文章保管用ブログ。
Posted by - 2024.11.22,Fri
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Posted by ささら - 2010.08.26,Thu

短編。時期はメイコの休日4の直後。
 


 夜は10時を回りそうな時間。
 メイコとカイトが研究所に帰ると、レンの怒声が聞こえてきた。
 怒声と言っても、ぷりぷりと言った形容の似合う怒り方で、あまり迫力はない。
「何があったの?」
 近くで成り行きを見守っていたリンに、メイコは聞いてみる。レンの怒りの余波を受けて、二人ともあまりいい表情をしていない。
「それが、ブッキングがあったみたいなの」
 リンの言葉に、カイトがすぐ反応した。
「ブッキング……スケジュールミス?」
「らしいよ。雑誌に使う写真の撮影と、インターネットに載せる写真の撮影が被っちゃったんだって。博士が珍しいよね」
「写真の撮影……」
 カイトが考え込み、数秒でああっと声を上げる。
「流石にそろそろムカついてきたし、止めに……カイにぃどこ行くの?」
 リンが行動を起こす前に、カイトはレンたちに近付いていた。レンに怒声を浴びせられていた博士が気がつき、近付く影に視線を向ける。罪悪感と苦笑が入り混じった表情を固まらせたままだ。
「レン、そこまで」
 止めるように博士とレンの間に割って入る。もちろん、レンの怒りが静まるわけもない。
「なんだよ!」
「カイト、いいよ、部屋戻ってなさい」
 先程から博士の表情は変わっていないが、今の声には焦りが混じっていた。追い払うような仕草をしているが、レンを見ているカイトは気がついていない。
「ブッキングした仕事は、○○社の撮影と、××さんの撮影だろう?」
「そうだけど、なんで知ってるんだよ」
「今回のブッキングは僕が悪い。博士に否はないんだ」
「あーもー」
 博士が頭を抱え始めたので、リンとメイコが首を傾げる。そもそも、カイトの言葉の意味がわからない。
「なんでカイトが」
「今日のレンのスケジュールを組んだのは僕だからだよ」
 ごめんと彼は言って、眉尻を下げた。
「オレたちのスケジュールって、博士が組んでるんだろ?」
 メイコとリンも同意見だ。博士の方を見ると、博士は疲れた顔でこう言った。
「いやあ、流石に全員分は一人じゃ無理が出てきて、新井さんとかカイトに手伝ってもらってたんだだけど。最近は半分くらいカイトも任せっきりだったからなぁ」
「そ……」
 レンが顔を歪めた。なんとも言えないが、泣きそうな顔が近い。
 リンにはその表情の気持ちがわかる。相手を間違えた恥ずかしさ、知らなかったのだから仕方ないという自己正当化、萎みだす怒りが、ない交ぜになっている。そして、この気持ちが行き着く先も容易に想像る。萎んだ怒りを無理に膨れさせて行き場を作るのだろう。
「カイトが……カイトが悪いのかよ!オレ、今日大変だったんだぞ!」
「ごめん。大変だったよね」
「そうだよ!オレが謝る事になるし、迷惑掛けるし、恥かくし!」
 リンが考えたとおり、無理矢理に怒るしか、処理の方法を思いつかなかったレンは、今度はカイトに食って掛かった。
 大変だった、お前のせいだとひたすら言い続ける。一度終息した怒声がまた始まった事に、リンは心底うんざりした。自分と容姿が似ているレンが、こんな女々しい態度をしているのは見るに耐えない。流石に口を出す事にする。
「レン、やめなよ!過ぎちゃったんだし、どうにもなんないって!それに、一方をずらして貰ったんでしょ!」
「だ、だけど」
「博士もカイにぃも謝ったんだから、長々と愚痴らないの!もう部屋戻んなって」
「……もういいや。カイト、今度はないようにな!」
 捨て台詞を吐いて、レンはリビングを出て行く。
「はあ、レンったら。……博士、カイにぃ、メイコ姉、おやすみなさい」
 リンがため息をついて、レンの後を追った。
 リビングには三人の人物が残った。
「すみませんでした。ミスは僕の責任です」
 博士に向き直り、カイトは言う。
 対して、博士は弱った顔はしているものの、怒っている風ではなかった。
「いや、ちゃんとチェックしなかったこっちも悪かったよ」
「きちんと確認したはずだったんですが」
「人間もミスするし、人間を模したアンドロイドだってミスはするさー。気にしない気にしない」
「流石に気にした方がいいんじゃないかしらね。でも、また同じ事やらなきゃいいのよ」
 メイコも慰める。
「新井さんや僕は他の仕事があるから、最近は七割任せてたんだけど、カイトも最近忙しくなってきて、負担が増えてたからねぇ。他にやる事があると、どうしても集中できないもんなんだよね」
「博士の負担軽減のためにやってたんですが」
「あはは、軽減されてるから大丈夫ー」
 軽快に笑った後、博士は真剣な顔になる。
「みんな忙しい上に、仕事めいっぱい入れてるから、いつか起こるとは思ってた。ミク以外の子たちに、それぞれのスケジュール管理を任せるようになるまで、こういうミスはまたあるかもね。ひとまずサイハツボーシってやつだけど、二重チェックの徹底ってところで」
 もうワンクッション挟みたいんだけど人がいないんだよね、と、博士は言った。
 話が切れたので、浮かない表情のカイトに、メイコが質問する。
「いつから博士の手伝いやってたの」
「ええと、戻ってきてからだから、一月から」
 そんな前なの、とメイコは呟く。全く知らなかった上に、そんな気配さえ感じなかった。
「隠してたわけ?」
「別にそういうわけじゃないけど」
「五月六月の、いない間は」
 この質問には博士が答える。
「その間は結構前に埋めてたし、ちょこちょこ新井さんと連絡取ってたから」
「相変わらず隠し事多いわね」
「カイトは秘密主義だからさー」
「博士もですよ!」
 慰めるためか、メイコと博士は深刻さのない言い合いを始める。
 またレンを怒らせてしまったなと考えながら、カイトは二階を気にした。見上げた天井は何も帰してはくれず、いつものように無機質だった。


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