『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』文章保管用ブログ。
Posted by ささら - 2009.11.10,Tue
青と緑2の続き。
(悪い、事、した、気がする)
ミクは話し合い中も上の空で考えている。他の面々は質問などをしているのに、ミクだけは身が入らない。
(怒ってるって思われたかな。でも、昨日の話考えれば私のやった事は正しい、と思う。だけど、だけど)
ミクは会社の事情などほとんどわからない。博士が会社の意向を無視できない事も知っている。しかし、やはり他社の情報を聞き出せ、なんてひどいと彼女は感じている。そして、神威を気に入ってる。だからこそ、なおの事認めたくなかった。
(むー、なんか納得いかない)
ぐるぐると考えた挙句、彼女は小さいため息をついた。周りはそれに気付いていない、ミクはそう思い安堵した。
そして見渡すように顔を動かすと、ちょうど向かいに見える紫色の不思議な瞳と噛み合って、思わず視線を逸らす。しまったと思ったがもう遅い、神威はじっとミクを見た後、片方の眉を吊り上げた。
「それじゃあ、ここまでは資料通りでいいでしょうって事で、二十分くらい休憩にしましょう」
ミクが気もそぞろな間に、大体の話は済んでしまったらしい。すっかり聞いていなかったので、彼女は慌てた。すぐ隣りに座る企画者の一人に声を掛ける。
「あのう、すみません、途中から聞いてなかったので、よければ後で教えて貰えませんか」
余りに消沈した顔だったためだろうか、イエスの答えがすぐに返ってきた。
「でも、済まないけど、先に飲み物買ってきたいんだ」
「その後でいいので、お願いします」
「いいよ。それにしても、聞いてなかったなんて珍しい」
そうかなとミクは思った。結構聞いてない事ありますよ、私たちだって人間みたいに集中したり散漫だったりってなんだから、などと言うか迷ったが、意味がないなと思い直す。きっと、彼らにとってそれはどうでもいい話だろう。
実際のところ、真面目なボーカロイドであるミクが仕事中に気を逸らす事は珍しいのだ。
この階にある喫煙スペースには自動販売機も置かれている。教えて欲しいと頼んだ人も、他の人間も、ほとんどそこへ行ったようだ。十数人はいたはずの室内は、今はほとんど残っていない。そのうちの一人である神威は、立ち上がろうとしていたミクに声をかけた。
「初音ミク殿」
「がくぽさん、おつかれさま」
「うむ、お疲れ様でござる」
(その言い方は変じゃないかな、いいのかなあ)
ぴしっとまっすぐ伸びた背中と、どこか余裕の感じられる佇まい。それなら、威張った風に御苦労!だとか言った方がそれらしいなとミクは感じる。そんな違和感を、彼女は曖昧に笑ってみせた。神威も笑みを浮かべている。
「順調に進んでいるようでござるな。良きかな良きかな」
「盛り上がるといいよね」
「我らにとっても今後の試金石になる故、もちろん盛況であればあるほどいい」
そこまで言ったところで、神威は真面目な表情になり、部屋にひとつしかない扉の方に目配せしつつ、ミクに問い掛けた。
「彼に話さなくていいのでござるか?」
廊下で待っているだろう人物の事だ。
彼女は迷った。正確には迷っていた。
「今は、ちょっと」
罪悪感に近いものがある。それが、彼の元へと近づきたくない原因だ。
「ふむ」
何に納得したのか、神威は小さく首肯した。
「子細は察しかねるが、喧嘩をしているようでござるな」
責めるでもない物言いだった。彼としては指摘しただけだろう。
「喧嘩とは違うんだけど」
ミクはうつむく。どう伝えようか、たっぷり秒針が分針を動かすかどうかの時間迷った。顔を正面に戻し、上目遣いに神威の顔を見てミクは口を開いた。
「怒ってるとかじゃなくて、その、納得いかない事があって、それで朝からちょっと冷たくしちゃってて。今は、気まずい、かも」
しれない。彼女の語尾は小さくなっていた。
「ふうむ」
彼は首肯せずに小さく唸り、ミクへと視線を戻す。
「確かに今日のミク殿は少々おかしい様子であった」
あっさりと神威は言った。
「え、と、どの辺?」
「彼を警戒していると見受けられた。もとよりそのような関係なのかと」
「仲いいよ!……いつもは、とっても」
「冷淡にしてミク殿自身が傷つくのであれば、元は仲の良い兄弟なのだと察しがつく。ならば喧嘩など一時に過ぎない。謝るか、時が経てば解決するであろう」
神威は腕を組み、上を見上げた。
「……と、以前そのように我が製作者は言うなんだ。今度妹ができる拙者に教えられた心構えの一つでござる」
「新しい、ボーカロイド?」
「うむ。製作者にそう言われた時、拙者は仲違いなどするはずがないと思っておったのだが……ミク殿でも喧嘩をするとなると、拙者が予想していた以上に兄弟の関係というのは難しそうでござるな」
憂いのある顔でため息をついた。
これからを憂鬱に思わせるつもりはなかった。ミクは思わず、そんな事ないよと言いかける。説得力がないという言葉が脳内で降ってわいた。ミクはルカとも険悪な関係になった事もあるため、確かに説得力が無い。別段、自分の我を無理に通しているつもりも無いのだが。
扉が開いた。入ってきたのはミクが会議の内容を教えてくれるようお願いをしていた人物だ。
「ごめんごめん、遅くなって。取り込み中?」
「あ、いいえ。急かしちゃってすいません」
ミクが微笑で答えると、相手の機嫌は大層良くなったようだった。いいよいいよとにこやかに言われて、ミク自身も少し上向いてきていた。
神威はそれを眺め、時計を確認した後、静かに部屋を出た。
次:青と緑4
ミクは話し合い中も上の空で考えている。他の面々は質問などをしているのに、ミクだけは身が入らない。
(怒ってるって思われたかな。でも、昨日の話考えれば私のやった事は正しい、と思う。だけど、だけど)
ミクは会社の事情などほとんどわからない。博士が会社の意向を無視できない事も知っている。しかし、やはり他社の情報を聞き出せ、なんてひどいと彼女は感じている。そして、神威を気に入ってる。だからこそ、なおの事認めたくなかった。
(むー、なんか納得いかない)
ぐるぐると考えた挙句、彼女は小さいため息をついた。周りはそれに気付いていない、ミクはそう思い安堵した。
そして見渡すように顔を動かすと、ちょうど向かいに見える紫色の不思議な瞳と噛み合って、思わず視線を逸らす。しまったと思ったがもう遅い、神威はじっとミクを見た後、片方の眉を吊り上げた。
「それじゃあ、ここまでは資料通りでいいでしょうって事で、二十分くらい休憩にしましょう」
ミクが気もそぞろな間に、大体の話は済んでしまったらしい。すっかり聞いていなかったので、彼女は慌てた。すぐ隣りに座る企画者の一人に声を掛ける。
「あのう、すみません、途中から聞いてなかったので、よければ後で教えて貰えませんか」
余りに消沈した顔だったためだろうか、イエスの答えがすぐに返ってきた。
「でも、済まないけど、先に飲み物買ってきたいんだ」
「その後でいいので、お願いします」
「いいよ。それにしても、聞いてなかったなんて珍しい」
そうかなとミクは思った。結構聞いてない事ありますよ、私たちだって人間みたいに集中したり散漫だったりってなんだから、などと言うか迷ったが、意味がないなと思い直す。きっと、彼らにとってそれはどうでもいい話だろう。
実際のところ、真面目なボーカロイドであるミクが仕事中に気を逸らす事は珍しいのだ。
この階にある喫煙スペースには自動販売機も置かれている。教えて欲しいと頼んだ人も、他の人間も、ほとんどそこへ行ったようだ。十数人はいたはずの室内は、今はほとんど残っていない。そのうちの一人である神威は、立ち上がろうとしていたミクに声をかけた。
「初音ミク殿」
「がくぽさん、おつかれさま」
「うむ、お疲れ様でござる」
(その言い方は変じゃないかな、いいのかなあ)
ぴしっとまっすぐ伸びた背中と、どこか余裕の感じられる佇まい。それなら、威張った風に御苦労!だとか言った方がそれらしいなとミクは感じる。そんな違和感を、彼女は曖昧に笑ってみせた。神威も笑みを浮かべている。
「順調に進んでいるようでござるな。良きかな良きかな」
「盛り上がるといいよね」
「我らにとっても今後の試金石になる故、もちろん盛況であればあるほどいい」
そこまで言ったところで、神威は真面目な表情になり、部屋にひとつしかない扉の方に目配せしつつ、ミクに問い掛けた。
「彼に話さなくていいのでござるか?」
廊下で待っているだろう人物の事だ。
彼女は迷った。正確には迷っていた。
「今は、ちょっと」
罪悪感に近いものがある。それが、彼の元へと近づきたくない原因だ。
「ふむ」
何に納得したのか、神威は小さく首肯した。
「子細は察しかねるが、喧嘩をしているようでござるな」
責めるでもない物言いだった。彼としては指摘しただけだろう。
「喧嘩とは違うんだけど」
ミクはうつむく。どう伝えようか、たっぷり秒針が分針を動かすかどうかの時間迷った。顔を正面に戻し、上目遣いに神威の顔を見てミクは口を開いた。
「怒ってるとかじゃなくて、その、納得いかない事があって、それで朝からちょっと冷たくしちゃってて。今は、気まずい、かも」
しれない。彼女の語尾は小さくなっていた。
「ふうむ」
彼は首肯せずに小さく唸り、ミクへと視線を戻す。
「確かに今日のミク殿は少々おかしい様子であった」
あっさりと神威は言った。
「え、と、どの辺?」
「彼を警戒していると見受けられた。もとよりそのような関係なのかと」
「仲いいよ!……いつもは、とっても」
「冷淡にしてミク殿自身が傷つくのであれば、元は仲の良い兄弟なのだと察しがつく。ならば喧嘩など一時に過ぎない。謝るか、時が経てば解決するであろう」
神威は腕を組み、上を見上げた。
「……と、以前そのように我が製作者は言うなんだ。今度妹ができる拙者に教えられた心構えの一つでござる」
「新しい、ボーカロイド?」
「うむ。製作者にそう言われた時、拙者は仲違いなどするはずがないと思っておったのだが……ミク殿でも喧嘩をするとなると、拙者が予想していた以上に兄弟の関係というのは難しそうでござるな」
憂いのある顔でため息をついた。
これからを憂鬱に思わせるつもりはなかった。ミクは思わず、そんな事ないよと言いかける。説得力がないという言葉が脳内で降ってわいた。ミクはルカとも険悪な関係になった事もあるため、確かに説得力が無い。別段、自分の我を無理に通しているつもりも無いのだが。
扉が開いた。入ってきたのはミクが会議の内容を教えてくれるようお願いをしていた人物だ。
「ごめんごめん、遅くなって。取り込み中?」
「あ、いいえ。急かしちゃってすいません」
ミクが微笑で答えると、相手の機嫌は大層良くなったようだった。いいよいいよとにこやかに言われて、ミク自身も少し上向いてきていた。
神威はそれを眺め、時計を確認した後、静かに部屋を出た。
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