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『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』文章保管用ブログ。
Posted by - 2024.11.22,Fri
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Posted by ささら - 2009.03.19,Thu
二月中旬頃の話。
時系列的には2月14日の後。話としては尊敬と好悪の続き。

 ルカが車から降りた時、ステップから小さくためて飛び降り、左足をつけたリンがルカに笑いかけた。
「ルーちゃん、早く早く」
 すぐに小さなバッグを持っている方の手をつかみ、引っ張っていく。思いの外強い力で、ルカはよろめいた。
 ルカに対してここまで積極的になっているのはリンだけで、あえて状況を気にせず、ルカと一緒にいる時間を多くするように勤めていた。それがリンの優しさだった。
 元気な妹とそれに振り回される姉のような二人の様子は微笑ましいものだと、二人の姉であるメイコは微笑んでいる。
 しかし、メイコのすぐ後に車から降りたミクは、気に入らないといった表情だった。もちろん、ルカとの仲の悪さのせいだ。
 彼女はルカが言った言葉に激昂して殴ったため、お世辞にも仲のよいとは言えない、対立状態が続いている。二人とも自分が悪いとは微塵も感じていないため、謝罪もなにもない。非がない限りは謝る気はないと、交戦する構えを見せている。
 ミクもルカも真面目で純粋だ。それは美徳である。褒め称えられるべきものだ。だが、同時に厄介でもあった。
「そんな顔してないの」
 自分の妹を見て、メイコは咎める。
 すると、自分が悪いとでも言われた気になったミクは、小さく鼻をならした。
「してないよ」
 ミクは短く言った。そして、感情を抑えるように勢いをつけた足取りでコンクリートの道を進み、ひとりで研究所の方へ向かっていく。
「あの子ったら、もう。しょうがないわね」
 少しいらつきながらメイコは言うと、その後ろからレンが、気持ちはわからなくもないけどと言ってため息をついた。
「一緒のところに住んでるやつに、突然来たやつがいなくなれって言ったら、いい気はしないだろ」
「あら、レンはルカのこと、そんな風に思ってたの」
「でも、オレはルカを責めるのもなんか違う気がする。それに、ルカが言ったことが正しいのか、ミク姉が叩いたことが正しいのか、よくわからないんだ。メイコ姉もだろ?」
 レンが下から覗き込んで聞いた。メイコはそうねぇと空を見上げて考え、そしてレンを見てからニコリと笑った。唇は大きなカーブを描いている。
「違うところが一つあるわよ。私は、ミクの怒りを正しいと思っているから。他の部分は同じ。どうしてもルカを怒る気にはならなかった」
 だからふたりともあの日からずっと傍観を決め込んでいるのだ。
 リンだけは違い、ルカに何度も話しかけて会話を図ろうとしている。しかし、今のところ芳しい成果はない様子だった。
「カイトは外野みたいにしててよくわかんねーし。博士は放っとけって言うけどさ」
 双子のようなものであるリンの努力に、レンは感じ入るところがあるのだろう、ミクがルカを殴る原因となった、つまり当事者の一人であるカイトに不満を募らせているようだ。
「何かやれば解決するわけじゃないでしょう」
 むしろややこしくなる可能性が高い。
「でも何もしないのはおかしい、と思う」
 鋭く睨むようにレンは目を細めた。
 少年期と青年期の間の人間をモチーフにして作られたレンは、時に強く潔癖な正義感を発露させる。
 こう着状態に陥ってしまっているのなら、とにかく外部から刺激を与えなければいけない。出来るのはカイトだけだろうと、レンは考えている。
 メイコは逆の意見を持っていた。
 今下手なことをしでかしては駄目なのだ。方向を上手く定められるタイミングでなければならず、それは今ではなかった。せめて、ルカが落ち着いてからでなければ、取り返しのつかないことになるかもしれない。
 ため息が同時に出る。両人ともどうすればいいのか、明確に答えを得ているわけではなかった。
「ほら、中に入りなさーい」
 運転席に乗っていた博士が声を掛けたので、レンとメイコはあわてて荷物を持って駆け出していく。
 駐車場へと発進させる前に博士は頭を掻いて、今抱えている問題を頭の中で列挙し、ため息をついた。

 おかえりなさいと笑顔でキッチンから出てきたのはカイトと新井だ。二人は夕飯の支度中であった。
 リンがただいまと返事をして、元気よく今日あったことを話し出す。カイトは楽しそうに相槌を打って応える。
 つれて来られたはいいが、手を握られた状態で放置されることになったルカは身の置き方を考えた。
 部屋に戻る、勝手にソファに座る、選択肢は思いついたがどれも気が引ける。リンの好意は感じていたためだった。
 ニコニコとリンの話を聞いていたカイトが入り口の方からの気配を感じてそちらを見ると、緑のツインテールがひょこりと見える。
「自分のはちゃんと持ってこないと駄目だよ」
 そう言って部屋に入ってきたミクは、手提げをひとつ掲げた。もう一方の肩にかけているのが自分の荷物だ。
「ミク、おかえり」
「ただいま、カイト兄さん。今日のご飯は?」
「奮発してお刺身とから揚げだ。葱もあるよ」
「そう」
 ミクの反応は薄かった。いつもなら物凄く喜ぶのに、今日に限っては、というより、今日だからこそこの反応なのだろう。しょうがないなとでも言いたげにカイトは少しだけ顔をゆがめた。幸いなことに、ミクはそれを見ていなかった。 
「リンちゃん、とりあえず荷物置いてこないと」
「でも時間がないよー」
「すぐ戻ってくれば大丈夫。どうせ最初から出るわけじゃないでしょ」
「はーい、わかった。ルーちゃん、行こう」
 またもリンはルカの腕を引っ張る。ルカは下げていたバッグが落ちそうになるのを押さえて、ひたすらに困惑していた。
 そんな様子でずるずる引かれていくルカをどう思ったのか、カイトはこんな事を言った。
「僕が持っていくから、ミクたちは休んでてよ」
 視線が集まる。集めた視線に気が付いたのか気が付かなかったのか、カイトは用事が出来たからと言って、ミクが持っていたかばん二つをまるで手品のように受け取った。思わず渡してしまったミクは、驚いて自分の手を見ている。
「ルカも」
 躊躇していたルカだが、眉間に皺を寄せて考えた挙句、カイトに預けることにした。
 無言で渡すと、カイトはうなずいて笑顔を作った。
「カイにぃ、いいの?」
「うん。もう番組始まっちゃうから、みんなで見てるといいよ」
 時計を見ると、すでに五分前だ。急いでリンはテレビをつける。
 ちょうどその時、足音が二つ近づいてきた。入り口にはメイコとレンが姿を見せている。
「めーちゃんもレンもおかえりなさい。荷物持ってくよ」
「ただいま。まったく、みんなを甘やかさないの」
「甘やかしてないよ。めーちゃん、ちょっとよろしく、ね」
 口調はのんびりとしているのだが、妙に逆らえないような威圧感がある。
 カイトの狙いがわかり、メイコとしては止めたかったが、喧嘩になる可能性がある。口喧嘩で、周りから見れば喧嘩には見えないだろう。しかしメイコはこれ以上彼の頑なさを引き出したくはないし、自分ではほぐせないことをよく理解していたのだった。だから素直に渡すしかない。
 メイコからバッグを受け取ると、今度はレンに向かってカイトの手が差し出された。実のところ、その行動は逆効果である。
「自分で持ってける」
 レンは不満げに頬を膨らませてそう言った。
「遠慮しなくても」
「オレだって男だよ。遠慮じゃない。行くんだろ?」
 言うなりきびすを返してドアの方へと向かってしまい。差し出した手を無視された形になったアンドロイドが目を丸くしている。その横で、メイコがレンの背に声を掛けた。
「頼むわね、レン」
 一言、それだけだった。左手をパタパタと振って返事とし、レンはずんずんと進んでいく。カイトは諦めた様子で、レンの後をついていった。
 彼らの会話の異様な空気に気が付いて、ミクたちは首をかしげた。特にミクは、どういうことなのか聞きたそうにしている。アンドロイドは基本的に知りたがりである。
「男のプライドってやつじゃないの?」
 アンドロイドに男のプライドもなにもと何も知らない人間なら思うだろうが、人を模して作ってあるため、同性同士の張り合いが起こる時がある。
 レンはカイトに任せることをよしとしない。それに、男同士で話すこともあるだろう。レンに任せればいいことだ。
 そうして偶然ではなく、レンや博士の意図的な行動によって、この場には女性型のボーカロイドのみが集まることとなった。研究員の新井もいるが、彼女は端の方で静かにこちらを、正確にはミクとルカを見ている。会話に参加する気のない様子だ。
「もうはじまっちゃうよー。ルーちゃんは特等席ね」
 テレビの前のソファにルカを座らせると、リンはニコニコと笑いながらその隣に座った。
 そして目当ての番組が始まった。夕食の時間帯にやる音楽番組だが、どちらかと言えばバラエティに近い構成だ。司会役を務める男の芸人が、早口で喋っている。
「いつでるのかなぁ」
「歌だけだったんならもう少し後ね。二人くらい出終わってからになるわよ」
 芸暦の長いメイコが、そう予想を立てた。
「じゃあそれまでご飯~?」
「博士もまだ車を戻してるみたいだし、もう少し待ちましょ。ミク、お茶用意するから手伝って」
 少し遠くでぼうっと立っていたミクと一緒にメイコはキッチンへと動く。研究員の新井も一緒だ。
 背筋を伸ばして、テレビ画面を見つめているルカに、リンはソファからこぼれた足をぶらぶらとさせながら話しかけた。
「うちの研究所は、みんなが出たテレビとかラジオとか、とにかく記録に残せるものは何でも残しておくことになってるの。今日のお昼にあったワイドショーとかも残ってるはずだから、後で見ようよ。自分が喋ったこととか、歌った映像とか、結構参考になるんだよ。ここ失敗したから次こうしようとか、ここはよかったから次もこうしようとか、ここは後で相談しようとか」
 なるほど、と、ルカはうなずいた。
「あ、何かいじめられたりしなかった?」
「いいえ、特には」
「そっか、よかった。わたしはこの番組出たことないんだけど、その、変なこと言わされたりとか、叩かれたりとかする時あるんだって」
「今回は、歌だけで、喋ることもほとんどありませんでしたから、そういう事はありませんでした。本当に、紹介だけという感じで」
 実は、ルカは拍子抜けしたのだ。自己紹介と一曲歌っただけだったため、これでいいのだろうかと不安になったのだが、それでいいらしい。こちらの番組は顔見世程度であり、本命は今日の昼に放送された曲発表の会見であった。会見の方と言えば、ほぼ台本通りで、更にメイコも付き添っていたため、ミスも滞りもなく終了していた。
「ルーちゃんは来て早々忙しくて大変だね。疲れたりとかしてない?大丈夫?」
 心配そうに聞くと、ルカは首を横に振った。
「大丈夫、です」
 リンには大丈夫そうには見えない。
「無理しちゃ駄目だよ」
 小さな声はスピーカーから出る音にかき消されていった。

 一方のレンとカイトは二階に上がると、それぞれの部屋に荷物を置きはじめた。どちらも無言だ。
 話すことはない、というわけでもないが、自発的に話しをすることが少ない二人だ、こうなるのも仕方のないのである。
 最後に階段に近いメイコの部屋に女性らしいデザインのバッグを置いたカイトの後姿をレンは眺めている。
 そして、メイコの部屋の扉が閉められたとき、レンは口を開いた。
「逃げてんじゃねーよ」
 荒れた心情を押さえ込むような口調のレンは、陰になって見えないカイトの表情を想像した。性格を考えれば、無表情とでも言える表情に違いない。
 その表情のまま、次はこう言うのだ。
「何の話?」
 なんて予想通りの反応。白々しい限りだ。
 わかりやすい。きょうだいだから、それもあるが、元々読みやすい性格だとレンは知っていた。何か争いが起きた時、遠くから様子を見て、必ず自分を安全圏に置く、そういうタイプだ。今も貝のようにじっとして、潮の流れをうかがっている。
「本来外側にいるリンがあんなに頑張ってるんだ。内側にいる癖にそうやって石みたいにしてるのはおかしいだろ」
 声に出してみると、自分がとても腹を立てているのがわかる。
 リンの事もあるが、それだけではない。他人事のように話すカイトは、腹を立てている自分をもバカにしているような気がするというのも含まれていた。
 またぐちゃぐちゃと躍起になって言わなきゃいけないのかとうんざりする。だが、そうしつつもつっこんだのは自分だ。お節介さくらいは自覚している。だから、なるべく荒げないように、低い声で言った。
「わかってんだろ、答えろよ」
 それに対し、カイトは何も返さない。
 レンが何を言うのか、カイトはわかっていた。そして、とぼけても無駄だとわかっていてもそうせざるを得ないと、胸の内でうなだれる。
 カイトにはミクやルカにこれ以上掛ける言葉がないのだ。ボーカロイドである彼女たちに、歌さえ捨てた者が何を言った所で届くものではない。
 実際、これ以上何を言えばいい。相手の事も考えろだとか、そんな事は二人とも百も承知だろう。それでも感情と呼ばれる機能のせいで許すに至らない。それは彼女たちのせいでもないから責める事もありえなかった。
 その辺り、レンはわかっているのかなとカイトは思考する。
 多分わかっていない。レンの思慮が足りないというわけではなく、レン自身がミクやルカと同じ場所にいるがために、わかりもしないし通じもしない。
「答えろよ」
 怒気を含んだレンの声が響く。ひたすら顔を隠したまま黙り込んでいるカイトに、レンは苛立ちを隠せない。
 せめて答えが欲しかった。反論でもよかった。とにかく、カイトの意志が欲しかったのに、目の前にはただただ高く厚い壁がそびえている。悔しさが握られた手のひらに指を食い込ませた。
「わかってんだろ、ミク姉とルカを助けてやれよ」
 ああ、やっぱりレンは何もわかっちゃいない。敗者が勝者を助けるなど、そんなおこがましい事が、できるわけがない。語るべき言葉がないのなら、黙るしかない。そうやってカイトは口をつぐむ。
 沈黙を保ったまま答えない、その事実がレンの怒りを煽った。
「カイト!」
 レンは叫びを上げてカイトの左手を掴み、力任せに引っ張る。
 世界が回り、空気を鳴らすほど加速した勢いに乗って身体を反転させられたカイトは、バランスを保てず後ろによろめく。足がもつれて、背中がメイコの部屋のドアにぶつかり、大きな音が廊下中に反響する。
 一瞬全身の信号が吹き飛んだ。痛みも感じない衝撃が、背中から胸、そして喉まで達すると、グッと息が詰まる。
 意識や理性が飛び、防衛反応が湧き起こる。流されそうになるのを止めるため、宙に浮いていたカイトの足はものすごい勢いで下ろされた。ドスンと踏み込んだ足に体重を掛けたまま下を向いたカイトは、奥歯を噛み締めて遅れてやってきた背中の痛みたちと戦う事となった。
 レンはそんなカイトを見て激情が収まりなどしなかった。むしろ下を向いてしまったことを、また顔を背けたのだと早合点して、相手に詰め寄って両腕を掴んだ。
 逃げるなとレンはもう一度言った。
「リンが努力してるのに、ミク姉が困ってるのに、ルカが一人なのに、何であんたはそうやってられるんだ!」
 激しくなじるその姿は、理性的なものではない。八つ当たりだと理解しているが、完全に衝動的なものであり、レンには如何ともしえない。それさえ甘えであるのだが、幸福なことに気付かないでいた。感情によって他者を責めても許される立場は希少である。
「逃げんな、答えろ、何とか言ってくれよ!」
 強く掴まれた腕の痛みはどんどんと増した。カイトは反論もできず、まとまりかけては消える言葉を探している。
「答えてくれなきゃ、言ってくれなきゃわかんない。わかってもらうことを放棄すんなよ、頼むって……」
 突然、トーンダウンした。レンは語尾を弱める。返答のない相手に対する怒りは、やるせなさによってむなしさに変わっていった。薄まったわけではなく、変化したのだ。
 顔を歪めて鼻の奥の痛みをこらえるレンを見て、カイトはやっと口を開いた。困ったような笑いを浮かべている。少し泣きそうな気がしたのはレンの見間違いだろうか。
「……僕には、彼女たちに言える確たるものが何もない。それともレンたちが何を言えばいいのか、教えてくれるのかい」
 彼は力の抜けたレンの手をのけると、その黄色の髪をなでる。
「たとえ僕が原因だとしても、何も」
「なら行動で示せ!」
 レンが発破をかけるように言った。すると、カイトは明らかに機嫌を悪くした。眉間に皺がより、口元がへの字にゆがむ。
「僕はなんでもできるわけじゃない。それに、何もしないのはレンも同じだと思うけれど」
「別だ、オレとカイトじゃ」
「行動しようとしているかに、責任も原因も関係ない。何もしようとしていないのは同じだよ。レン」
 君が今やっている事は自分に対する言い訳に過ぎないと、カイトは断じた。


次:尊敬と好悪3

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