『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』文章保管用ブログ。
Posted by ささら - 2009.02.26,Thu
2月14日の裏話。
温度差が。
温度差が。
「て、事がさっきあったんだよ」
「はあ」
気のない返事のカイトは、額にやっている氷嚢を首の後ろに当てながら博士の次の言葉を待っている。
対する博士は、カイトの反応を見ているようだった。意見があるなら言ってみろ、という事だろう。感想も意見も持っていない者としては黙るしかない。
結局、根負けしたのは博士だった。
「かわいいかわいい兄弟たちが必死に考えてくれた事だから、無下にしないようにね~」
どう聞いても直接的に釘を刺しに来ている。
「僕だって、嬉しいですよ。そんなに信用ありませんか」
「笑ってるけど笑ってないような顔で嬉しいと言うのはやめた方がいいよ?喜怒哀楽に関して更に信用がなくなるから」
その通りだとカイトは思う。そして、こういう時に図星をぴたりと当てる辺りが、博士がこの研究所の主任をやっている理由なのだろうとも。
「誕生した事を祝われるのがそんなに嫌?」
博士はおどけた顔で聞いてはいるが、目は真剣そのものだ。
「……呪い、みたいなものです」
なんともまあネガティブな感想だ。そこまで言うか、と、博士は苦笑した。
「それにほら、死んだ子供の年を数えるのはよくないって言うじゃないですか。僕は二度、いや、三度かな、死んだようなものですから、誕生日なんて祝う必要ないと……わかりました、わかっています。大丈夫です。僕はみんなの事好きですから」
途中からの不満そうな博士の表情のお陰か、カイトは諦めた。
博士はカイトが諦めた事に不満を感じつつ、壁にあるカレンダーを見る。2月14日、世間的には贈り物をする日らしいが、カイトとってはまた別の意味を持っている事を、博士は知っていた。
「僕はね、例の事件が起こった日に、カイトの誕生日を聞いてきたのが、とても運命的なものだと感じるんだ」
「偶然ですよ」
間髪入れずカイトは答える。
そう言うだろうと思っていた博士は遠くを見ながらこう言った。
「偶然に後付けで理由をつけたものが運命と言われるものなんだよ」
格言のような言葉だったが、言われたほうは興味無さそうに、そうですかと返事をした。そしてそっと時計を見やる。
「そろそろ寝ます」
「うん」
多少融けている氷嚢を博士に渡して立ち上がった。
「足元、気をつけてねぇ」
足取りが危なっかしいのを見て、博士は注意を促す。
はいと返事をしたカイトがちょうど扉の前に来たその時、ふらりとよろめいた。
「うわっ」
短く悲鳴を上げて、前方にある壁に手をつく。
カイトが入浴を一番最後に済ます理由がこれだ。直ったらしいと聞いていたが、新しい部品との相性が悪いらしく、どうも冷却が遅れている。仕方がないので、物理的に冷却する事にしているのだ。
「氷持ってく?」
「いえ。大丈夫です」
「必要なら言ってねー。それから、やせ我慢は必要なものじゃないからね?」
「大丈夫です」
強く言い切った。だが、フラフラとしているので全くそうは見えない。
「そうそう、三日後だからね」
「何がですか?」
「今日聞きに来たけど、明日明後日はみんなして仕事だから、多分誕生日云々は三日後、つまり17日になると思うよ」
カイトはぎょっとしている。
「運命的でしょー」
「博士、何か言いましたか」
「なーんにも。正式起動する予定だった日にぶつかったのは、本当に偶然」
じっと横目でにらまれているが、本当に何も言っていないので痛くも痒くもなかった。博士はからからと笑っている。
「まあ、そこんとこも含めて、もっとポジティブに捉えてもいいイベントだと思うよぉ」
「……おやすみなさい」
「はい、おやすみ」
低い声で言ったカイトは重心を揺らしながら扉の向こうへ消えた。
ひとりになると博士は大きくため息をついて、大きな独り言を喋り始める。
「いっそカイトの部屋に冷凍庫つけようかなぁ。それにしても、心配をかけたくないから最後にするとか言うけど、それだったら誕生日くらいさぁ……」
周りに対する希望がひねていて、どういう状況を望んでいるのかよくわからない。
彼自身が自分の望みをわかっていないのかもしれない、むしろそうなのだろうと博士は腕を組んで首を縦に振るのだった。
「はあ」
気のない返事のカイトは、額にやっている氷嚢を首の後ろに当てながら博士の次の言葉を待っている。
対する博士は、カイトの反応を見ているようだった。意見があるなら言ってみろ、という事だろう。感想も意見も持っていない者としては黙るしかない。
結局、根負けしたのは博士だった。
「かわいいかわいい兄弟たちが必死に考えてくれた事だから、無下にしないようにね~」
どう聞いても直接的に釘を刺しに来ている。
「僕だって、嬉しいですよ。そんなに信用ありませんか」
「笑ってるけど笑ってないような顔で嬉しいと言うのはやめた方がいいよ?喜怒哀楽に関して更に信用がなくなるから」
その通りだとカイトは思う。そして、こういう時に図星をぴたりと当てる辺りが、博士がこの研究所の主任をやっている理由なのだろうとも。
「誕生した事を祝われるのがそんなに嫌?」
博士はおどけた顔で聞いてはいるが、目は真剣そのものだ。
「……呪い、みたいなものです」
なんともまあネガティブな感想だ。そこまで言うか、と、博士は苦笑した。
「それにほら、死んだ子供の年を数えるのはよくないって言うじゃないですか。僕は二度、いや、三度かな、死んだようなものですから、誕生日なんて祝う必要ないと……わかりました、わかっています。大丈夫です。僕はみんなの事好きですから」
途中からの不満そうな博士の表情のお陰か、カイトは諦めた。
博士はカイトが諦めた事に不満を感じつつ、壁にあるカレンダーを見る。2月14日、世間的には贈り物をする日らしいが、カイトとってはまた別の意味を持っている事を、博士は知っていた。
「僕はね、例の事件が起こった日に、カイトの誕生日を聞いてきたのが、とても運命的なものだと感じるんだ」
「偶然ですよ」
間髪入れずカイトは答える。
そう言うだろうと思っていた博士は遠くを見ながらこう言った。
「偶然に後付けで理由をつけたものが運命と言われるものなんだよ」
格言のような言葉だったが、言われたほうは興味無さそうに、そうですかと返事をした。そしてそっと時計を見やる。
「そろそろ寝ます」
「うん」
多少融けている氷嚢を博士に渡して立ち上がった。
「足元、気をつけてねぇ」
足取りが危なっかしいのを見て、博士は注意を促す。
はいと返事をしたカイトがちょうど扉の前に来たその時、ふらりとよろめいた。
「うわっ」
短く悲鳴を上げて、前方にある壁に手をつく。
カイトが入浴を一番最後に済ます理由がこれだ。直ったらしいと聞いていたが、新しい部品との相性が悪いらしく、どうも冷却が遅れている。仕方がないので、物理的に冷却する事にしているのだ。
「氷持ってく?」
「いえ。大丈夫です」
「必要なら言ってねー。それから、やせ我慢は必要なものじゃないからね?」
「大丈夫です」
強く言い切った。だが、フラフラとしているので全くそうは見えない。
「そうそう、三日後だからね」
「何がですか?」
「今日聞きに来たけど、明日明後日はみんなして仕事だから、多分誕生日云々は三日後、つまり17日になると思うよ」
カイトはぎょっとしている。
「運命的でしょー」
「博士、何か言いましたか」
「なーんにも。正式起動する予定だった日にぶつかったのは、本当に偶然」
じっと横目でにらまれているが、本当に何も言っていないので痛くも痒くもなかった。博士はからからと笑っている。
「まあ、そこんとこも含めて、もっとポジティブに捉えてもいいイベントだと思うよぉ」
「……おやすみなさい」
「はい、おやすみ」
低い声で言ったカイトは重心を揺らしながら扉の向こうへ消えた。
ひとりになると博士は大きくため息をついて、大きな独り言を喋り始める。
「いっそカイトの部屋に冷凍庫つけようかなぁ。それにしても、心配をかけたくないから最後にするとか言うけど、それだったら誕生日くらいさぁ……」
周りに対する希望がひねていて、どういう状況を望んでいるのかよくわからない。
彼自身が自分の望みをわかっていないのかもしれない、むしろそうなのだろうと博士は腕を組んで首を縦に振るのだった。
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