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『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』文章保管用ブログ。
Posted by - 2024.11.22,Fri
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Posted by ささら - 2009.04.01,Wed
時期は三月初め辺り。

 風呂上り直後の彼が、いつも通りふらふらした足取りで博士の部屋に入ると、博士は机の前に座って本を読んでいたようだった。持っていた雑誌を机の上に置いて立ち上がった博士が、数歩歩いた所にある冷蔵庫の一番上の扉を開けて氷嚢を取る。それを、お疲れ様ですと喋ったカイトに手渡した。受け取り、額に当てながら机近くにあったパイプイスに座ると、カイトは雑誌の表紙に目をつけてこう言った。
「鳥、好きなんですか」
 博士は元居たイスに座ると、その雑誌を持ち上げてカイトの方に表紙を向けた。白と黄色の模様がかわいらしい鳥の視線は明後日の方向だ。
「僕は嫌いじゃないけどねぇ。コレは、研究所用。前にペットがどうとか、話があっただろう、その続き。……懐き易さ、安全性、飼い易さ、色々考慮中で、犬辺りが無難だろうけど、鳥やハムスターや虫、爬虫類も候補の一つ」
「爬虫類はちょっと、どうでしょう」
 女性型のボーカロイドは爬虫類や虫を苦手としている事が多い。
 博士はすぐさま首肯した。候補とは言いつつ、可能性は元々低いのだろう。
「それで、鳥類ではカナリヤなんかがいいと思うんだ~」
「危険をいち早く察知するため、ですか?」
 軽く笑いながらカイトは聞いた。動物を飼う事についての真意を探るような光をあからさまに宿した瞳が、博士を見ている。
「ないとは言わないけど、流石に鉱山じゃあるまいしー。それにミクたちが泣いちゃうでしょ、それは」
 笑い声交じりで返したが、同時にボーカロイドたちへの心配も忘れてはいない。
「違いありません。……しかし、カナリヤですか。歌を忘れたカナリヤは、なんて歌もあるのに……皮肉ですね」
 ふっと笑顔を消したカイトは、そのまま窓の方を見た。ブラインドで遮られたガラス窓の向こうには、夜空が見えるはずなのだろう。今は白のプラスチックが、室内の明かりを漏らさないよう、薄い壁を作っていた。
 博士は言葉の意味をすぐ理解したようだ。もしかしたら、同じような事を考えていたのかもしれない。
「古い歌なのによく知ってる。ボーカロイドだから、かな」
「ええ、まあ」
 誤魔化す様に笑っている。
「カイトもさ、月夜の海に浮べられたなら、忘れたままでいるとはいかないと思うけど」
 嫌な聞き方をしている博士自身が思った。
 聞かれた方は、少し間を置いてから、さびしそうに言った。
「……そうなんでしょう」
 そして小さな声で、メロディに乗せて、その歌の歌詞をつぶやく。
「月夜の海に浮べれば、忘れた唄を……」
 思い出すと言う歌詞は、音にもならず虚空に消えた。


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