忍者ブログ
『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』文章保管用ブログ。
Posted by - 2024.11.22,Fri
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Posted by ささら - 2009.04.18,Sat
紙吹雪のように1の続き。
時期は4月初旬。

 レンは、ちょうど部屋の前で鉢合わせしたルカの歌を聞いている。他人の歌を聞く事も練習の一環になるからだ。
 真面目な彼女は練習を疎かにしない。空き時間はほとんど練習室に篭っているといっていい。本当にボーカロイドである事に全霊を注いでいるのだと思うが、同時にその必死さがむなしい。ボーカロイドでなかったら価値がないというように彼女は歌う。彼女の言動を省みれば、そんな思考をしているのだろう。そんなのは悲しいとレンは思うのだ。それを言えるほどの仲でもなかったし、聞いてもくれないだろうが、これでも兄弟として心配しているのである。
 考えてみれば、歌わないボーカロイドは価値がないという話からこの状態が始まったのだった。彼女の存在意義が歌にあるのは間違いないし、自分自身も、歌える事が存在意義だ。
 商業利用できないボーカロイドは必要ない。もしもルカだけでなく会社がそう考えているとして、ではカイトの存在が許されている理由は何だろう。何故この研究所に戻ってこれたのか。そもそも、壊れてから戻ってくるまで、彼が無事だと誰も言わなかったのは何故なのか。
(研究所、いや、会社の思惑なんて、オレたちにはよくわからないんだ。メイコ姉でさえよくわかってない。でも、あいつは)
 自分にはわからない事を当たり前のように知っている。
(会社の事がわかっている、だからなのか?だから無事でいるし、仕事をしなくても許される)
 腹が立つ。自分たちとは違う部分が見えてしまう事が、何よりもむかついてしまう部分だ。自分たちとは違う、一種の特別扱いが、レンを嫌にな気分にさせる。
 身勝手な言い分だ。カイトが自分たちと違う事にカイトが責任を持っているわけがない。歌わないのは、歌えなかった過去があるからで、それに、会社が許可しないとも聞く。理由はわからないが、外に出したくないらしいのは自分たちの管理者の方であって、彼の責任ではない。
 わからない事ばかりだった。アンドロイドを取り巻く環境は、必ず誰かの思惑がうっすらと浮かび上がっている。もっと前ならそんな事気にせず、ただ無邪気に歌っていられたのに、今は違ってしまっている。中途半端な知識だけで世界を見なければいけない事が、レンの苛立ちを増幅させるのだ。
 歌の途中のはずだが声が止まり、少しして曲が止まった。自らの歌に不満があるらしいルカは、真剣な目で楽譜の一部を指で何度もなぞっている。考え事をしていながらも曲は聞いていたので、レンはアドバイスをする事にした。
「今の音節の入り、子音をもう少し早めに発音した方がいいと思う」
 驚いた顔でルカはレンを見た。そしてもう一度楽譜を見ると、詰まっていた部分を何度か小さな声で繰り返す。微妙な顔になった。意味のないアドバイスだったかなとレンが思っていると、ルカはレンの方を向いて頭を下げた。
「ありがとうございます」
「……歌詞を変えるのは作詞の人と相談だけどさ、リズムが崩れない範囲で自分の歌いやすいように発音をずらしたりはいい、と、思う。譜面通りにしようとしても、発声の仕方は何通りもあるし、それに言われたままにやりましたなんて言うなら、練習の意味ないだろ」
 レンは拗ねた顔で言う。しかし、別に拗ねたわけではなく、恥ずかしかっただけだった。
 そのレンをどう思ったのか、ルカはもう一度、ありがとうございますと声に出した。そして、聞いていたのですか、とも言った。聞いていないと思われていて心外だとレンは思い、当たり前だろと返してルカの目を見る。
 彼女の瞳を見ていたからではないだろうが、二人だけでいるというのは珍しいとレンは気がついた。すると、今がチャンスかもしれないという思考が頭をもたげる。仲のいいリンが既に聞いたかもしれないが、レンはまだルカの意識を聞いた事がなかった。確認するにはいい機会なのかもしれない。
「あの、なんですか」
 じっと見ていたので、ルカが訝しげな表情をレンに向けた。
「あ、なんでも、いや、うん」
 迷いを隠さずにレンは視線を逸らしている。
 今後、こんな状態がいつまわってくるかもわからない。聞いた方がいいか迷う頭の隅で、放っておいた方がいいと聞こえた。カイトの声をしていた。だから、レンは聞くことを決めた。
 ルカは首を傾げると、視線を逸らしたままレンが、覚悟を決めて息を吸った。
「……その、まだミク姉の事、許してないのか?」
 小声だがはっきりと聞こえるように出された言葉に少しだけ眉をひそめて、ルカは凛とした声で言った。
「許すも何も、わたくしは……。むしろ、許していないのは先輩の方でしょう」
 レンは、一瞬だけルカを見る。嘘のない、正当性を確信した表情。彼女は前もこんな顔をしてカイトをいらないと断じ、そしてミクの怒りを買った。
「カイトの事はどうなんだ?まだ、ここにいるべきじゃないって言うのか?」
 目を伏せて考えを巡らせ、数秒で瞼を上げた。
「言います。わたくしは間違った事を言ったとは思いませんでしたし、それは今も変わりません。ここにいるべきではない存在だとわたくしは思います」
 床へ向いていた視線をルカに戻して、レンはため息の準備をするように息を吸った。
「前から思ってたんだけどさ、その必要ないって、誰が、どういう理由で決めるんだよ」
「それは、研究所にとって必要かどうかです」
 吸った分を吐き出す。大きな音にならないように、慎重に。
「なあ、今さ、カイトがここにいるのは、もちろん研究所の意向が働いてる。会社の決定なんだ」
 彼女は辛そうな顔になり、唇を噛んだ。悔しいのだろう。ルカはわかっているのだと、レンは察した。
「自分が正しいって言い続けても、認められるわけじゃないぞ」
 嫌われたなと思った。厳しい事を、本人がわかっているのに言われるのは、随分わずらわしく思うだろうから、きっと嫌われた。意志を聞くだけだったはずが、なぜか口を出している。こうやって首を突っ込むところが悪い癖なんだとレンは自覚しているが、性分なので仕方がない。
 ルカが視線を落とす。床には天井から降り注いでいる明かりが、ぼんやりと円を作っていた。
「……わかりません、どうしてここにいることを許されているのか、わたくしにはわかりません。わたくしは、使えなければいらないと、ずっと、言われて、ここに来たのに。どうして……」
 かわいそうだ。それまで教えられていた、信じていたものと違う事がまかり通っているのを見て、彼女の基盤となる部分はガタガタになっている。
 悲しい事だ、とても。しかし、そうやって同情しても仕方がないわけではある。レンが同情して彼女の心が晴れる事はないだろう。
「……ルカはすごく真面目だと思うけど、何でも博士たちが合ってるってわけじゃないと思う。だから、その、ルカが教えられた事がさ」
 ここまで来ておきながら、レンは間違っているんじゃないかとは言えなかった。そこまでの勇気はない。
 二人とも黙り込んだ。音響機器の音だけがかすかに空気を揺らした。レンは横目で時計を見る。デジタル時計の数字は3時を指していた。そろそろ時間だ。
「リビングに行かないと駄目だな」
 レンがそう言うと、ルカは首を振った。
「わたくしは……」
「あんまり根を詰めてもいいものにはならないと思う。行こう」
 彼女は首を振る。ミクたちに会いづらいのだろう。
「だけど」
 口を開いた時に扉が開いてレンとルカは驚いた。青い髪の男が扉の影から顔を出している。
「まだ練習中かい?うん、そうでもなさそうだね。仕度できたよ」
 彼は微笑んで言った。レンは、今行こうとしてたんだと言って、ルカの方を見る。ルカはまた表情を隠すように下を向いていた。
「すみませんが、わたくしはもう少し練習いたします」
 伏せたままカイトに言う。すると、カイトは予想していたかのようにニコリと笑った。
「練習も大事だけど、こういう季節を楽しむ事も大事だよ。皆、リンも待ってるから」
「歌の練習をしたいのです。わたくしは、ボーカロイドですので……花を見るのは、歌に関係ないでしょう」
 彼女の声はかすかに震えていた。泣きそうであり、緊張しているようであり、怒りを持っているようにも聞こえる。
 レンはルカとカイトを交互に見て、事態を見守っている。カイトは驚いた顔をして部屋の中に入ってくると、後ろ手に扉を閉める。
「ルカがそんな事言うとは思わなかった。桜も見ずに桜の歌を歌うつもりかい?」
「その理論ではボーカロイドは何も歌えなくなりますわ」
 ルカは少しだけ顔を上げて、睨むようにカイトを見て言った。カイトは首を傾げた。驚いた表情も消え、冷たいとは違うが、何か遠くのものを見るような目をしている。
「恋をした人間しか恋の歌を歌ってはならないなどと言う気はないけどね、実物を見る事も歌うためになる事の一つだよ。その努力を行わないと言うのは、ボーカロイドとしてどうかな」
 急速に空気が冷えきった。
「……あなたがそれを言うのですか」
 ルカ特有の掠れた細い声が悲痛な音色で叫ぶ。
「ボーカロイドとして何もしていないあなたがそんな事を!」
「鈍感でいるのも大概にしろ!」
 響いた音が、受容器官を刺激する。人工的に作られた鼓膜が大きく振動している。レンがここまで声を荒げたカイトを見たのは初めてで、誰が大声を放ったのか認識するのに数秒を要した。度肝を抜かれたという表現が一番合うだろう。
 一瞬、ルカは震えを押し殺した。そして、負けられない、負けたくないと、様々な感情がない交ぜになった目で、カイトを睨む。その感情は、明らかに怒声を向けられた事への怯えも含まれていた。彼女の目尻からは涙が溢れかけ、隠そうとしたはずの悔しさと恐怖を隠しきれていない。
 対してカイトは、ひどく冷めた視線を上段から浴びせかけている。いつもの彼からは想像できないほどの冷たさにレンはぞっとした。
 数十秒、時が経った。
「すまない、今のは言い過ぎた。僕が悪い」
 カイトは目を伏せて謝った。何が狙いなのかと警戒し、ルカは身構えている。
「ルカの僕に対する心情は理解しているつもりだから、僕には何を言ってもかまわない。罵っても、いくら嫌っても。だけど、それでルカの事を思っている相手の気持ちを無視するのはやめてくれ。リンは、本当にルカと仲良くなりたいと思っているんだ。今日はリンのために行ってやって欲しい」
 そう言って、ルカにお願いだからと更に念を押して頭を下げた。
「……わかりました」
 ルカは頷いた。不満そうな表情ではある。
 カイトが室内にある音楽機器に向かう。スイッチを切るためだ。その様子をルカとレンは黙って見ていた。ちょうどルカとレンには背中を向ける形でしゃがみ込む。
 彼は何個かのボタンを押して、ランプの色が変わるのを待っている。その間、静かに話し始めた。
「僕は作られてすぐ開発の奥にしまわれてね、そこは窓一つくらいしかないような部屋で、寝転がってるから空を見る事くらいしかできなかった。桜の知識はあったけど、見た事も、匂いも感じた事もなかった。夏の暑さも、冬の寒さも、秋も春も、何も感じられない場所だった。二年近くそこで過ごした後、研究所に来た」
 うつむいた彼の後姿は、哀しさを帯びていた。
「劣等感と言うやつがね、意外と曲者なんだよ。知らない、感じた事もない、想像した事もない、そんな自分を他人と比べてしまうと、どうしようもなくなる。……上から目線に色々言うわけじゃないけど、見たり、感じたり出来るなら、積極的にやっておくといいよ。少なくとも僕みたいに、他人に強烈に嫉妬する事は少なくなる」
 緑から赤に切り替わる。あと数秒で電源が落ちるだろう。
「さてと、喋りすぎた。……行こうか」
 立ち上がり、ルカたちの方を向いた。眉を寄せた笑顔は、寂しそうだった。
 ルカが顔を背け、そしてすぐに出入り口に歩き出した。先に行きますと歩きながら言った。レンとカイトが無言で後を追う。
 廊下に出ると、カイトは練習室に鍵を取り出した。レンが少し離れたところから話しかけた。ルカは既に数歩向こうだ。
「劣等感とか……もう歌えるんだろ」
「歌えたらそれはそれでね、自分のヘタさがわかるから」
 差し込めない事に気がついてキーホルダーについた二つの鍵を見ている。間違えたらしい。少しして、もう一方を差し込んだ。
「ヘタか?」
「ルカやレンが居残り練習するようなものだよ。足りないものばかり自覚する」
 ガチャリと鍵がまわる音がした。
「主観じゃんか」
「一番大事だ」
 カイトはそう言ってレンに微笑みかける。レンはなんともいえない表情をして、リビングに続く廊下の床を踏み出す。ルカは既に数十歩先を歩いていた。

 見上げると、淡いピンク色が一面に広がっていた。
 その下で、リンが嬉々として妙な柄のシートを広げる。広くはないので同じ柄のシートをいくつかくっつけて並べていた。ばさばさと言う音と共に広げられたシートの上に、メイコがジュースの入った大き目のペットボトルを置く。重し代わりらしい。
 花見と言っても何か特別な事をするわけではない。ただ、シートを広げて食べ物を食べるだけである。それでもリンは嬉しい。何よりも、全員でここにいられる事がだ。
 静かな表情で重箱を抱え、ルカはリンたちの方へ歩いて来た。カイトと新井が、午前中からずっと、この中におかずを詰める作業をしていた。結構な重さらしく、よいしょと言う掛け声でシート上に下ろされた。その小さな掛け声がかわいらしくて、横で見ていたメイコがくすくすと笑うと、ルカが不機嫌な顔になる。からかわれたと思ったからだ。当然だろう。
「ごめんごめん、おかしくて笑ったわけじゃないの。なんだかかわいいなと思ったのよ」
 それはそれで恥ずかしくて、顔を赤くしながら、更に不機嫌さが増した。そんな反応だからかわいいのよと、メイコはまた声を押し殺しながら笑った。
「ルーちゃんルーちゃん、お弁当は真ん中に置いてね」
 リンがニコニコとして指差した。靴を脱いでシートの上に上がり、箱を少しだけ浮かせて移動させると、リンがそのまわりにペットボトルと紙コップを並べる。機嫌がいいので鼻歌まで歌っている。自分の歌だったので、ルカはリンの顔を見ると、目があってしまった。
「いい曲だよね」
「え……ええ、はい。素敵な曲をいただいたと思っています」
「だよね。ルーちゃんの声にも合ってると思うよ!」
 彼女の言葉がありがたいと思った。
 ルカがミクと対立しても、ルカに何の気負いもなく話しかけていたのはリンだけだった。彼女がいたから、研究所にいる事が嫌にならずに済んでいるんだろう。ここにいられる、ここにいようとするモチベーションは、全てリンがくれた。仕事のモチベーションとは違う、もっと別のものを、リンは与えてくれていた。
 ずっと味方をして、仲良くしようとするリンに、ルカはとても感謝している。
「あ、ありがとう……ございま……す……」
 感謝と恥ずかしさで消え行く語尾も気にせず、リンが満足げに頷いた。
「リン、めーちゃん、手伝ってー」
 アルミサッシの向こうからカイトが呼んでいる。
「ルーちゃんはここで先にお茶でも飲んでて、わたし行って来るね!今行くー」
 返事をすると、リンとメイコは軒先の段差を上がって行った。
 ルカは一人取り残される。
 建物に背を向け、シートの中ばに正座する。
 塀の内側、敷地の中にそびえる木がこんなに多い事に、ルカはやっと気がついた。
 こんなに沢山ある必要があるのか。
 ある、と、研究所の所員も他のボーカロイドの言うのだろう。
 ルカにはわからない。何が必要で、何が不必要なのか、わからなくなってしまった。起動してから、迷わずにいられた期間は極僅か、この研究所に来てからは、ずっと迷い、惑っている。
 見上げると、桜の花は満開でルカの頭上を覆う。深い茶色の枝についた花々が一斉に咲けば、絨毯のように空を埋め尽くす。風に煽られて花びらが落ちてきて、ルカの膝に乗った。
 後ろの方で気配がした。靴が芝まじりの土を踏む音。途中で靴を脱いだ気配は、ルカの横まで来て、ルカと同じように座った。
「……きれいだね」
 ミクが言った。
「はい」
 ルカは少し間を開けてから肯定した。きれいだと思ったのはルカも同じだったからだ。
 沈黙する。互いに表情は見ない。
 そうして、大きな風が吹いて桜の枝を揺らした時、ミクが少女らしいかわいい声を、少し低めに出して言った。
「まだ、私はルカの言った事、許せない」
 仕方ないと思った。知っている、とも思った。今更宣言されても何にもならない。物別れに終わるだけだ。
「許せないよ。許せない……けど」
 ルカが横目でミクを見た。ミクはうつむいていた。
 けどね、とミクは言って、大きく息を吸う。
「だけどねっ……ルカと私は、同じだから」
 驚いた。何を言い出すのかとルカは思い、まじまじとミクを見る。
「私、全然疑問にも思わないで、当たり前だって思って、ずっと歌ってきた。支えられてきたし、そのために生まれたんだから、期待に応えるのが当然だって、自分じゃないひとの事、全然考えなかった。……歌えるようになっても、それで望みがかなったわけじゃないのに、そんな事も考えないで、何も失わなずに来れた私が、歌えなくてかわいそうって、それで歌が歌えるようになったら、単純によかったねって。そんなの、言える話じゃなかったのに」
 搾り出した声が、春の風に乗る。
 また枝が揺れた。桜が紙吹雪のように降り注ぐ。満開の桜はこれ以上咲くことはない。風の音と共に、ただ散っていく。ルカの髪と同じ色の、この美しい花たちは、ただ重力に引かれて、地面の上に落ちていく。
「知らない事ばかりだったの気がつかなかった。言われなかっただけで、私だって兄さんの事、傷つけてたんだ。だから、本当は、ルカの事言えない」
 ミクはルカがいる方とは逆を向いた。目元に溜めた水分を隠せるように。
「カイト兄さんに言った事は許せない……けど……あの時……叩いて、ごめん……」
 そう言ったミクは立ち上がった。そして手で目を拭いながらその場を離れようとする。すると、聞いていたルカが、ミクの背に向けて響く声を放った。
 ミク先輩、と、彼女は呼んだ。
「本当は……本当は、わかっていたんです。言ってはいけない事を言ったんだと。だから、わたくしも」
 声が詰まる。
 リン以外とは仲がいいとは言えない状態のまま、既に二ヶ月。違うと否定し、間違っていないと叫んだから、こんなに距離が離れていった。
 意地になっていたのは否定できない。ミクが間違ってないと言う度に、ミクが怒りの相貌を向けた分だけ、自分は間違っていないと彼女は思った。
 だが今日、ミクは謝った。
 ならば、自分自身のした事を、冷静に見つめなければならない。
 間違っていたと言うわけではないと思う。けれど言ってはいけなかった。言った事で、自分を不利に追い込んだし、まわりを傷つけた。その事は認めなければならないのだ。
「……申し訳、ありませんでした」
 認めたくはなかったのはどちらも同じ。お互い、相手が間違っていると話し合う事もせず、違うと言い続けた。その不毛な争いは、研究所の面々を巻き込んで、緊張を生み出してしまった。
 花吹雪が舞う。ちらちらと落ちて行く。いくつもの花びらが、ルカとミクの周りに降り注ぐ。
 足を止めたままのミクが上を見た。花と青空が見える。少しだけ日が落ちて、陽光は弱くなっているようだった。
「私に、謝る事じゃないよ。でも、カイト兄さんは多分、謝って欲しいとは思ってないから、謝ってって、言えないや」
 寂しそうに、悔しそうに言った。
 そして振り返る。
 ミクは笑っていた。
「次、一緒の仕事あったよね。一緒に、頑張ろう……ルカちゃん」
 ルカは優しく微笑んで、首を大きく縦に振った。


次:小さな音楽1
PR
リンク(ボカロ外)
ori
ゲームレビューやコードギアス、ヘタリアなど。
連絡先
HN: ささら

mail@underluckystar.sakura.ne.jp
(@を小文字に)
twitter

Powered by NINJA TOOLS
自サイト
アデンユメ
ブログに載せてる話の外伝とか。
ブログ内検索
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
忍者ブログ [PR]