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『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』文章保管用ブログ。
Posted by - 2024.11.22,Fri
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Posted by ささら - 2009.08.22,Sat
留守番3の裏話的な何か。

 レンは不審そうに口を開いた。帰る事を誓うまで、レンは引き下がらないだろう。僕のことを信用していないからだ。信用出来ないように行動しないのだから当然であり妥当だ。僕はレンやめーちゃん、ミクやリン、そしてルカの感性を信頼しているし、誠実で正当なものだと知っている。自分の感覚は少しも信じられないが、みんなは、素直だから信じられる。いや、単に自分を信じていない事に酔っているだけだ。いつも見得を張っているのだ。他人に弱みを見せないように、自分の薄弱な知性を悟られないように。そうやってここまで信用を貶め、残ったのはへらへらと笑顔を作る落ちない能面だけだった。不毛極まりない。
 気配に気が付いたのをいい事に、一旦その場を離れる。あたかも今出てきたんだと言う態度で建物を角を曲がると、研究所でよく見る白衣がいた。レンの行方を捜しているらしい。知らないと答えると、当然だなと返された。知っていたら研究員としては困るだろう。そして、僕としても、知っている事を期待されては困る。その研究員が興味なさそうにそっと見えるドームの方へと向かっていったので、姿が見えなくなったのを確認してからレンのところまで戻った。
 歩くたびに痛覚が言葉に出来ない程の信号を脳に伝えている。他人に指摘された瞬間にふきだした痛みだ。少しも痛くも痒くもなかった捻じれた左腕が、肩から脳まで届く鈍痛を発し、熱を持って全身の汗腺を刺激する。実のところ喋るのさえ億劫で、何でもいいから殴りたいという感覚が離れない。日頃、暴力的な思考を抑えているから、こんな時に浮き出てくるのだろう。膨れて破裂し、また浮き出ては破裂する。まるで泡だ。
 思っていたより大人しくレンは引き下がった。僕もこれ以上ここにいる理由がない。戻る前に、もう一度だけそびえ立つ研究棟を見る。専用の研究棟は久しく使われておらず、禍々しい程白かった壁は、実物も記憶も既に褪せていた。
 そもそも、こんな場所に用事なんてない。ただ時間が空いたから、暇だったからここに来た。レンがいた事は想定外だったが、一方でひどく安堵した。過去を知られるのは、恥ずかしいと同時に安らぎを感じる。特に、彼には大体の事を知られている。隠している訳ではないが、他人に知って欲しい情報の選別くらいはしている。どうしてか、ミクやリンやルカには昔の自分を知られて欲しくないし、めーちゃんやレンは構わないと思っている。どこからその差が来るのか、判断は付かない。付けるつもりもない。
 奥に戻ると、やはり実験の続きを命じられる。
 内容はともかく、命じられた事自体に気を悪くする事はなかった。命令されるのは嫌いじゃない。考えなくていいなら悪くない。最悪なのは、考えろと命令される事。アンドロイドにそれを望んでどうなるものでもないのに、心優しき人間はそう命じる。アンドロイドの思考だって人工物だと、どうして気が付かないのだろう。
 無感情な了承を頭の上下で表して、僕は定位置に付く。モニタするための端子を身体に付け、うなじにある端子口にケーブルを差し混んだ。目の前にあるちょうど腕を入れられるくらいの穴に左腕を突っ込み肩まで埋めると、中で拘束される感触が、容赦なく痛みの根源を撫でる。肩と腕の間、二の腕、肘、一の腕、そして手の平の半ば辺り。これまで通り、拘束具はあまり役に立たないだろう。どんな風にしても、連動している限りまわるものはまわる、捻じれるものは捻じれる。捻るのが目的だから当たり前の話である。
 さっき、レンにはあえて話さなかったが、手首の可動と耐久実験は終わっていなかった。だからこの後は続きになる。修理が行われるのは確かだ。後で、ではあるが。嘘をではなくても少し罪悪感を覚えるのは仕方ない事だ。
 ガラスの向こうの部屋から研究員が出てきて、足と上半身を固定した。足は床に置いてある機械から伸びるワイヤーで、上半身は後ろに地味にたたずむ背もたれで、それぞれ強固だ。連動で妙な形に曲がらないように、痛みで暴れないように、そして逃げないようにという処置らしい。拷問みたいだと昔顔も思い出せない研究員の一人が言っていた気がする。さほど重要な記憶ではないが、ふと思い出した。名誉のために言っておくが、開発部の人間も、何も拷問がしたいわけではない。製品だけを持ってきても欲しい情報が得られない場合がある。特に感覚のデータは、アンドロイドを使ってでしか取れないのだ。実証実験や耐久実験のためにアンドロイドを潰す会社や研究所は山ほどある。ここもその一つだというだけだ。むしろ、耐久実験のためだけに作られるアンドロイドがいないだけまだマシだろう。そのために作られる事の悲……いや、そのアンドロイドにとっては嬉しいのかもしれない。それは当人にしかわからない。僕は純粋に実験のためだけに作られたアンドロイドではないからわからない。中途半端に、ボーカロイドとしての機能とセクシャロイドとしての機能を持ち、接続用アンドロイドと似たような機能も持っているが、専用のものではないのでどれもこれも足りていない。他者を攻撃する事を厭わない原則のないアンドロイドでもあるが、護衛用というわけでもなく、守る事も攻撃する事も得意ではなかった。僕にしても、あと二人にしても、随分中途半端な作りをしている。何を作るのか、僕を作ったあの方は迷っていたような気さえする。自身の中途半端さは嫌いだが、いい事も多少はある。攻撃を躊躇しなくてもいい、それはありがたいと思う時があった。
 思考が饒舌だ。苦痛を和らげようとしている。機器に腕を差し込む時も、そもそも歩いている時さえ、左腕はひどい痛みを発していた。今現在も、目を逸らしたいくらいの痛みを抱えて、のたうつ事さえ許されない現状に、厳しいなと歪んだ笑みが漏れた。
 カウントが開始される。猶予の10カウントは、前の痛みを思い出すにはちょうどいい時間だ。きっと採取されるデータには、実験が行なわれる前から、幻想の痛みに痛覚が反応を示しているはずだ。幻影が身体に影響を与えるように、僕らの身体は出来ている。そこまで人のように作らなくてもいいだろうに。流石にこんな時には文句の一つや二つ言いたくなるものだ。
 ゼロの声と共に装置が動き出す。手の平を拘束していた部分がじわじわと動き始め、手首が今捻れているのとは反対方向に回りだす。逆回転させるとは思っていなかったから、首筋から悪寒と冷や汗が噴出した。どれほどの激痛が来るだろうか。覚悟をしても、腹の底から吐き気が逆流するのを止める事は出来ない。
 多分、今回は左手を落とすところまでやるだろう。最低限の速度で激痛と共に捻じれ切られる手を、数時間掛けて、意識をなくす事も出来ずに知覚し続ける作業。
 無性に帰りたくなった。苦痛しかない時間を越えれば帰れる、それを希望にはしたくないが、今は何かに縋りつきたい気分だった。帰れるのだろうか。素直に修理して貰えて、すぐに帰れるだろうか。不安になっている。とてつもなく。きっとレンに会ったからだと八つ当たりして、奥歯を噛み締める。
 今すぐみんなに会いたい。
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