『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』文章保管用ブログ。
Posted by ささら - 2009.08.30,Sun
時期は6月初め。息抜き話。
ミクがその様子に気が付いたのは六月に入ってからだった。ダイニング近くの出窓、いつの間にか増えていた観葉植物の一つが妙なのである。やけに根元が黒い。何なのかと見ていた時にメイコが通りかかったので、渡りに船とばかりに聞いてみた。
「黒くなってる?……腐ったんじゃないのかしら。根腐れってやつ」
そう言って、メイコはカイトを呼んできた。基本的に、植物の世話はカイトと所長がやっており、増やしているのもこの二人だ。
「腐ってるね。ミクたちは水やったりとかした?」
様子を見たカイトは首を傾げながら言った。
「やってないよ。乾いてる時に気が付いたらやってたけど、それも二度くらいだし」
「他にやってる人を見た?」
「リンちゃんかなぁ。ほら、カイト兄さんたちがいなかった時、こっちにいたリンちゃんに任せてたから」
「なるほど。水が量が原因だろうね。一応コントロールはしていたつもりだったんだけど。とりあえずまだ力があるところを土にさしてみよう」
外に出ている所長が居れば詳しくわかったんだけどとカイトは言った。園芸と裁縫が趣味の所長は、知識も結構ある。所内の植物の管理は所長主導だ。
「大丈夫なの?」
「駄目になったところは切り離した方が実害がない。根っこの辺りが腐っただけだから、下のほうを切って茎を直接植えると、うまくいけば根が出てくる。植物はそういう力がある」
ミクはすごいねと相槌を打った。純粋にそう思ったので、悪意など全く見当たらない表情である。
「一番いいのは適切な環境に置いて、適切な世話をしてやる事だけど、これがなかなか。でも、何事もそんなものだよ。ボーカロイドもね」
意味有りげな発言をしてから、カイトは小さなプランターを持って扉の方へ向かう。ミクはその後姿を見つつ、ふと思い浮かんだ疑問をメイコ宛に発した。
「そういえばあれ、何の植物なの?サボテンみたいだけど」
「サボテンじゃなかったと思った。クラッスラ、とか所長が言ってたはずよ。でもサボテンみたいよね、葉が厚いし」
「ヨーグルトのパッケージに描いてあるアロエみたいだよね」
「仲間なんじゃないかしら?」
メイコが片眉を吊り上げた妙な笑顔で言うと、聞いていたらしいカイトが振り返って答えた。
「そういうの、多肉植物って言うんだ。このクラッスラもその一種で、花月とも呼ばれる。ちなみに一番有名な名前が他にあるんだけど、とても俗っぽい」
「俗っぽい?」
聞き返したミクに、カイトは笑った。少し皮肉交じりだ。
「別名、金のなる木。これね、所長が冗談で貰ってきたんだよ。研究所の金回りが良くなりますようにって」
おかしいだろうと肩をすくめたカイトが部屋から出て行く。
ミクはぽかんと口を開けていた。驚いている様子に、メイコは屈んで顔を覗く。
「お金かぁ」
お世辞にもボーカロイドにお金が掛からないとは言えない。研究所の運営も、ボーカロイドの管理と世話も、お金が掛かっているはずだった。
「もっと頑張ってお仕事しないと駄目かなぁ」
そうミクは呟いた。それに対して、メイコは呆れ顔で言った。
「これ以上ミクが頑張る必要はないと思うけど」
いっぱいいっぱいでしょ、と、メイコは思う。これ以上、どこに仕事を増やす時間があると言うのか。大体、仕事量を管理している博士がそれを許さないだろう。体調管理には気を使っているはずだ。
しかし、ミクはメイコの言葉が聞こえていないようで、もう一度、お金かぁと、感慨深く呟いた。
次:レンと白砂の大地 前編
「黒くなってる?……腐ったんじゃないのかしら。根腐れってやつ」
そう言って、メイコはカイトを呼んできた。基本的に、植物の世話はカイトと所長がやっており、増やしているのもこの二人だ。
「腐ってるね。ミクたちは水やったりとかした?」
様子を見たカイトは首を傾げながら言った。
「やってないよ。乾いてる時に気が付いたらやってたけど、それも二度くらいだし」
「他にやってる人を見た?」
「リンちゃんかなぁ。ほら、カイト兄さんたちがいなかった時、こっちにいたリンちゃんに任せてたから」
「なるほど。水が量が原因だろうね。一応コントロールはしていたつもりだったんだけど。とりあえずまだ力があるところを土にさしてみよう」
外に出ている所長が居れば詳しくわかったんだけどとカイトは言った。園芸と裁縫が趣味の所長は、知識も結構ある。所内の植物の管理は所長主導だ。
「大丈夫なの?」
「駄目になったところは切り離した方が実害がない。根っこの辺りが腐っただけだから、下のほうを切って茎を直接植えると、うまくいけば根が出てくる。植物はそういう力がある」
ミクはすごいねと相槌を打った。純粋にそう思ったので、悪意など全く見当たらない表情である。
「一番いいのは適切な環境に置いて、適切な世話をしてやる事だけど、これがなかなか。でも、何事もそんなものだよ。ボーカロイドもね」
意味有りげな発言をしてから、カイトは小さなプランターを持って扉の方へ向かう。ミクはその後姿を見つつ、ふと思い浮かんだ疑問をメイコ宛に発した。
「そういえばあれ、何の植物なの?サボテンみたいだけど」
「サボテンじゃなかったと思った。クラッスラ、とか所長が言ってたはずよ。でもサボテンみたいよね、葉が厚いし」
「ヨーグルトのパッケージに描いてあるアロエみたいだよね」
「仲間なんじゃないかしら?」
メイコが片眉を吊り上げた妙な笑顔で言うと、聞いていたらしいカイトが振り返って答えた。
「そういうの、多肉植物って言うんだ。このクラッスラもその一種で、花月とも呼ばれる。ちなみに一番有名な名前が他にあるんだけど、とても俗っぽい」
「俗っぽい?」
聞き返したミクに、カイトは笑った。少し皮肉交じりだ。
「別名、金のなる木。これね、所長が冗談で貰ってきたんだよ。研究所の金回りが良くなりますようにって」
おかしいだろうと肩をすくめたカイトが部屋から出て行く。
ミクはぽかんと口を開けていた。驚いている様子に、メイコは屈んで顔を覗く。
「お金かぁ」
お世辞にもボーカロイドにお金が掛からないとは言えない。研究所の運営も、ボーカロイドの管理と世話も、お金が掛かっているはずだった。
「もっと頑張ってお仕事しないと駄目かなぁ」
そうミクは呟いた。それに対して、メイコは呆れ顔で言った。
「これ以上ミクが頑張る必要はないと思うけど」
いっぱいいっぱいでしょ、と、メイコは思う。これ以上、どこに仕事を増やす時間があると言うのか。大体、仕事量を管理している博士がそれを許さないだろう。体調管理には気を使っているはずだ。
しかし、ミクはメイコの言葉が聞こえていないようで、もう一度、お金かぁと、感慨深く呟いた。
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