「五つの歌声」の裏話的な何か。
bさんのグダグダ思考垂れ流し。
気が抜けたんだろう。
朝、ミクたちを見送った直後に倒れたまま動けなくなってしまった。
無理をするものじゃないなと思って、そもそもここまで永らえた事自体が無理だったなと思い直した。
完全に動けない、というのも何回目だろうか。何回なっても慣れないなと思う。
でも、前ほどの苦しみはない。それには慣れたから。
倒れた事に気がついた博士が、首後ろの端子にコードを繋いで何かやっているようだ。
すみませんと声を出そうとすると、発声を司る部分が引きつるように鈍く動き、それでも声は出なかった。
周りの状況はわかるのだけど、こちらから何か伝える事ができない。
それが、少し寂しい気がする。
それにしても、いよいよ止まる時が来たのだ。
流石にこれ以上はどうしようもない。
博士は手を尽くしてくれたし、研究所の人はみんな優しかった。
それと、めーちゃんやミク、リンやレン、会えるとは思っていなかった兄弟たちに、会えて本当に良かったと思う。
いや、みんなの晴れ舞台を見にいけなかったのが、少し未練だ。
博士の声が聞こえる。
けれど反応はできない、もう動かない。
「元々、君がこの研究所に来たのは、メイコたちへの影響を計るためで、君自体に対しての配慮はなし、壊れたら終わりだった。知っているとは思うが」
ええ、知っています。途中で変更になったことも。
他のボーカロイドへの影響が良好だった事で、計画が修正されたんだ。
「……もしかしたら、何とかなるかもしれないんだ」
笑う顔が目に浮かぶ呼吸音がした。
「対策を練っているし、上から対処しろとも言われている。君がどう思おうとも、対処法が見つかれば容赦なく実行する。君が嫌がっても、もう一度起き上がってもらうかもしれない」
そう言って、博士はため息をついたようだ。
ようだというのは、どうも視覚が駄目になってきたらしくて、暗くぼんやりと周りが見えなくなってきたからなのだけど。
「君に決定権は与えられない……すまなかった」
なにを言ってるんですか。
決定権なんて、アンドロイドにはない。それ以前に、人間にだって死ぬタイミングの決定権はない。
それに、決定権なんてあったとしたら、きっと希望があることの辛さで狂ってしまうだろうから。
今のままでいい。先が見えないくらいでちょうどいい。
……それを、伝えたいのに。
もう動かせないなんて。
「今から、スリープ状態にする。もしももう一度目覚める時ができたら、君の世界はもっと明るいだろう。……そうなるよう、頑張ってみるよ」
さようならという博士の呟きが聞こえた。
そして。
僕の身体は止まった。