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『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』文章保管用ブログ。
Posted by - 2024.11.23,Sat
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Posted by ささら - 2008.08.15,Fri
タイトル通りの内容。
意外と当人は、もうちょい変な方向にポジティブなんですが。

 深夜。
 ベッドに入っても眠れなくて私は散歩に出た。
 研究所からは出れない(深夜になると建物のセキュリティにロックが掛かる)ので、研究所内をぶらぶら歩くだけなのだけど。
 眠れない理由は、たぶん、ライブが近いからだ。
 リンちゃんとレンくんのデビューまであと数日。
 緊張してるのか高揚してるのか……どっちもなんだろう。
 私の次に作られた鏡音シリーズ、リンちゃんとレンくんは、最初二人作る予定だったわけじゃない。
 元々リンちゃんの計画があって、諸事情でレンくんが作られたんだそうだ。
 リンちゃんが使っている精神パターンが不安定だから、外部からそれを補助、というより、言い方悪いけど制御するために作られたのがレンくんだ。
 二人が研究所に来てすぐの頃、何の用事かは知らないけどレンくんだけが外出したことがあった。自主練すると言ったリンちゃんの部屋からものすごい音が聞こえてきて、何かと思って行ってみたら、リンちゃんが部屋のものをそこらじゅうに投げつけていた。すぐにメイコ姉さんと所員の人が取り押さえたけど、あと少し眠らせるのが遅かったら、廃棄しなきゃいけなかったかもしれないくらい危険な状況だった。
 そんな事があったから、レンくんとリンちゃんはなるべく一緒にいるようにさせてたし、二人ともそうしていた。
 それが変わってきたのが、カイトさんが来てからだ。
 リンちゃんとカイトさんはすぐ打ち解けた。特にリンちゃんはよく懐いていて、ドラマとかでよく見る「仲のいい兄妹」みたいだと思う。
 レンくんは、仲良く話す二人を不機嫌そうに見ていたし、カイトさんに対する言葉も態度もきつかったから、リンちゃんを取られたと嫉妬しているんじゃないかと心配だったけど、よく観察してみるとどうもそうではなくて、二人の事を心配しているのがわかった。確かにあの二人はおっちょこちょいな所があるし、ボケボケしてるし、私も心配になってよく目で追いかけてしまう。
 レンくんは心配してるのを悟られたくないのと、元々あんまり感情を表に出すのがうまくないので、いつも仏頂面してる。ほほえましいなと思う。
 リンちゃんとカイトさんも、最近、レンくんの真意がわかったみたいで、レンくんが不機嫌そうにしていてもニコニコしている。レンくんは恥ずかしそうにしてるけどまんざらではないみたいで、あんまり表情に変化はないけど、楽しそうに話してるのを良く見かけるようになった。
 この研究所に来た時、緊張したみたいで、強張らせた顔で私たちを見ていたのを良くおぼえてる。
 それからこんなにも変わったんだなって、感慨深いっていうのかな……そんな気分だ。
 廊下をあてもなくふらふら歩いていると、練習室からなにか聞こえた……なにかの曲だ。
 誰だろう、まだ練習中なのかな。
 そっと部屋に近づく。
 音が近くなって、それがもう取り戻せない歌だと気がついた。
「リンちゃん」
 部屋には予想してた通り、リンちゃんがいた。
 床に座り膝を抱えて、目の前の音を出すだけの機械を睨む。
「それ、カイトさんの歌だよね」
 寂しげな曲だった。少し寒い雰囲気。雪のような、夜のような。
 声は普段のカイトさんと同じだった。イメージ通り、歌う声も優しげで、落ち着いていて。
 そして。
「なんだか悲しい歌だね」
 私は思った事を素直に言った。
 リンちゃんは、私のそんな率直な言葉を聞いて、やっとこちらに顔を向けた。
「……ミク姉、夜更かしすると身体に悪いよ」
「リンちゃんこそ。ずっと聞いてたの?」
 すぐには答えず、また古い型の音楽プレイヤーに顔を向ける。
 曲が終わり、また流れ出す。同じ曲をリピートしているらしい。
 少しして、肯定する声が小さく聞こえた。
 私もまた曲に耳を傾ける。悲しい、悲しい声。
 何度も繰り返す。何度も聞く。
 そうしていくらか時間がたった後、リンちゃんはおもむろに音楽プレイヤーに近づいた。
 機械からいまどきアナログな音楽テープを取り出すと、深呼吸をし、そして。
 そして、中のテープを無造作に引っ張り出す。
 テープが抵抗するわけもなく、刷り込まれていた音はビリビリという音と共に消えた。
 ……どうして。
 だってそれは、カイトさんの、大切な、もう失われたもののはずなのに。
「なんで」
 私は、そう言うしかなかった。
 呆然とする私に、リンちゃんは向き直る。
(ああ、リンちゃんも、辛いんだ。だってこんな)
 今にも泣きそうな顔で。
「たぶん、カイにぃは、これが残っているの嫌だろうから」
 言うなり部屋を飛び出す。
 部屋の外から、レンくんがリンちゃんを呼ぶ声と走る足音が二つ聞こえた。
 レンくんが外にいる事に反応も出来ず、私はただ立ち尽くした。


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