フィクションです。実際の地名とは一切関係ありません。
夕方になり、太陽はすでに見えない。深く暗い群青色の中、海の向こうの地平線に少しの光が漏れ出していた。鉄塔につけられた赤いライトが鉄塔自身の存在を主張している。ボウっとついてはボウっと消える赤色の光、その点滅がまるで命の鼓動のようで、不吉な予感を覚えさせた。
新横矢と呼ばれる港は海を埋め立てて作られた貿易港で、近くに観光地もないので仕事で使う以外用のない場所だ。巨大な貨物船が停泊しているが、客船はなく、その周りと言えば積み上げられたコンテナか倉庫か、後は輸出用の自動車が敷き詰められた土地があるだけだった。
そんな場所にいる人間と言えば、商社の人間か、貿易船の作業員か、あまり表舞台に出せないような用事を持つ者だろう。
そしてここに、見る人には警察の類だとわかるあろう人間と場違いな人間が一人ずつ、アンドロイドが二人いた。
山田博士は海風が寒いのか、両の手をさすりながらキョロキョロとまわりを見回している。
「ここが新横矢か~。……なんだか殺風景だねぇ」
「まあ大抵の人間は関わりない土地だと思いますよっと、カイトどうだ」
博士の感想に相づちを打った藤原は、とある事情で自分のところに置いているアンドロイドのカイトの方を見る。カイトは藤原の携帯電話を操作しながら答えた。
「送られてきた情報によりますと、確かにE-587という番号のついた倉庫があり、その倉庫以外似たようなのはないとの事です。現在そこを使用しているのが……これです」
「ははぁ、例の組織のダミー会社か。いよいよ真っ黒だな。で、場所は?」
「地図ではすぐ近くです。5分くらいでしょうか」
「そうか。じゃあ俺ちょっと一人で偵察して来るから、そうだな、そこの影に待機していてくれ」
「連れ」
「てかない。人呼んでるから、後の指示はそいつらに聞いてくれ。あ、博士とメイコ……さんもカイトと一緒にいて欲しい」
「邪魔になりますかぁ」
「まあ、はっきり言えば」
さすがにこの人数を一人で守ることは出来ない。カイトは護身術を習得しているものの、一般人より多少強い程度であるし、博士は見た目からしてからきしだろう。そして、メイコは多分博士が生命の危機に陥らない限り人間を攻撃することは出来ないはずだ。‘普通のボーカロイド’である彼女に刷り込まれている原則のせいで、特定の状況下におかれない限り満足に反撃も出来ないのだ。
しかし、藤原が博士とメイコが共に来ることを許可したのは理由がある。
「もしもええと、b?がいて、もしも危険な状態であったら手当てを頼む場合がありますが、いいですかね」
「もちろん。こちらもそれ込みで用意してきてますからね~」
「わかりました」
それまで黙っていたメイコが首肯する。しかし、そうは言っても専門ではないので足手まといなのは変わりないのだが、メイコとしては、研究所でただひたすら待つなんてことはしたくなかった。もう手を尽くさずに待つだけは嫌だった。昨日開発で少しだけ会えたカイトがこんな状況に陥っているのに、安全な場所でのうのうとしているのは耐えられなかった。そこが彼女の優しさであり、強さであり、弱さだ。
藤原とカイトは緊急時の対応などをやり取りしている。来てほしい時は電話するからそれまで動くな、危なくなったら逃げろ、スペアの携帯のどこぞを押せなどと言う具合だ。藤原がカイトのことを心配しているのがよくわかる。
そして、じゃあと言って藤原は目標の倉庫に向かった。
博士とメイコとカイトは指定された建物の影に隠れる。なるほど、ここなら見つかりにくいなと博士たちは思った。経験のある人物の指示は的確だ。とはいえ、カイトとしては心配らしく、こんなことをメイコと博士に話す。
「マスターのところの人に来てくれるよう頼んでます。とりあえず10人があと二十分くらいで着くらしいので、その人たちと一緒に倉庫に向かいましょう」
「いいの?約束破って」
メイコが首を傾げると、カイトは何かに気が付いた顔をした後、取り繕うように笑った。
「マスターが危険、かも、しれない、じゃないです、か」
妙に言葉を区切っている。後ろめたい事があるのか、メイコにも博士にも、事の内容はわからなかった。
建物と建物の狭間にいる状態ではまともに潮風を受ける。これがまた海上で冷やされて寒い。ブゥンという船の音と何の音かもわからない高い音が時折響く中で、三人は押し黙った。
藤原が呼んだ10人の男たちが来ると、藤原と共に建物に突入すると言う。そして、博士たちに一人護衛をつけると、後の八人は藤原のいる元へ向かった。聞けば戦闘のベテランばかりだし、遠目で確認したところ人が大量にいるわけではないようだからすぐ終わるとの事だった。
「いやぁどーも、C社の研究所の主任してます、山田です。お世話になってます」
護衛として付いた藤原の同僚と名乗る人物に話しかけると、向こうもいえいえこちらこそなどと返す。そして互いに愛想笑いを浮かべながら状況の確認をしているようだが、腹の探り合いと言ったほうが正しそうだ。メイコはそんなことしている場合じゃないだろうと思うが、たぶん博士は何か考えがあるのだと思い直した。それでも、何やってるんだろうとは思う。気分に引きずられて溜息をつくと、ちょうどカイトの溜息と重なった。驚いてそちらを見ると、向こうも気がついたらしい。どちらが先ともなく苦笑した。
メイコは苦笑いを浮かべたまま、カイトに言った。
「カイトのこと心配なんでしょ。今日ここまで来てくれたし」
「マスターがいますからね。……あいつ、そろそろ廃棄されれば楽になるのに」
カイトは苦笑に怒りの入り混じった表情でそう答えた。
後半は独り言のような小さな呟きだったが、メイコにははっきり聞こえてしまった。嫌な言い方だ。同じときに生まれた、双子のようなものなのに、楽になるのになんて。メイコは悲しくなってしまった。それを顔に出さないように、そっと下を向いた。
10分ほどたった頃、カイトが持っていた携帯電話に着信があった。藤原だ。
「はい……あ、はい。すぐ来てほしいとの事です」
どうやら本当にすぐに終わったようだった。相手が少なかったのと、こちらの人員がよかったのと、どちらもだろう。
急ぎ足でそちらに向かう。四人揃って件の倉庫に着き中に入ると、まず見えたのが仰向けに寝転がり目を閉じたままのカイトの姿だった。
「カイト!」
メイコと博士が駆け寄る。カイトに向かってメイコが必死に話しかけている横で、博士が藤原に話を聞いていた。そして、様子を確認するため床に膝をつく。本当にいるとは、と、もう一人のカイトはつぶやきながら近づく。いわゆる感動の再会というもののはずだが、カイトはそうは思っていない。
「マスター、どうですか」
「最悪」
「捕まえたんじゃないんですか」
藤原は見てみろと言わんばかりに親指で後ろの方を指差す。カイトはそちらを見て藤原の言葉の意味がわかった。ブルーシートを被せられた物体があり、その周りにはおびただしいほどの血痕があった。もう少し早く来ていたら乾く前の血の海を見る事になったかもしれない。
「突入した時には既に仏さんだった。多分スケープゴートくれぇは用意してるだろうし、何とか裏をつつきたいとこなんだけど、どーかな……」
藤原は、みすみす関係者を取り逃した事と、アンドロイド略取の容疑者を捕らえ損ねた事と、深く追求できないかも知れないという状況が腹立たしくて仕方ない様子で、尻尾をつかめるかも知れなかったのにと吐き捨てた。
「まあ、こっちのカイトが無事なようでよかった」
「お騒がせなやつ」
「お前、心配してた癖に」
「してません。もう関係ありませんし、それに、あいつと仲悪いんです」
ふーん、と藤原は相づちをうつ。全く信じていない。
「まあ向こう行ってやれ、なにか困ってるみたいだしな。……実感ないかもしれねーけどメイコは姉ってやつなんだろ、あんまり泣かすんじゃねぇぞ」
「エセフェミ」
「うるせぇよ」
藤原とカイトがそんな話をしていた頃、博士の方はまだカイトを診ている最中だった。カイトの首後ろにコードを繋ぐと、それを博士が持っていた文庫本サイズの黒い端末に繋ぐ。アンドロイドの状態を調べるためのこの機械は博士の私物で、このサイズはかなりの値段がする。個人的に持っている人間は珍しい。
「博士」
「ん~。なんだろ、さっきからループしてるのかなぁ、一個信号が帰ってこないし、変な信号来てるし……妙なんだよねーこの機械じゃ解析できないし……あーどうしよっかぁ」
博士は軽い口調だが、メイコは焦っていることを見抜いていた。あまりいい状況ではないのだ。どうにかしなければと彼女は思い、普段は考えもしない方法を提案した。
「私と繋いで解析すればわかりますよね、それを」
「出来るけどダメ。いくら同じ会社のもの同士とはいえ、それやったらどっちにもダメージあるから」
当たり前のように即却下だった。そんなリスクの高いことをさせるわけにはいかない。博士は保護者なのだ。
「同型を使えばいいでしょう」
声が聞こえた。カイトだ。
「でも君がやってもきついでしょ~」
茶化した声で博士はやんわりと止めるが、カイトは沈黙を答えにした。そのまま眠っているカイトの元に近づき、端末に繋いでいるほうのコードの口を渡すようにと手の平を出す。
カイトの表情を見ると、真剣な顔をしている。
博士は、やっぱり似てるなぁと思った。今足元で動かない状態のカイトも、頑固で勝手な部分があった。そして、こちらの言うことなど聞こうともしない時は何を言っても無駄だった。多分目の前の彼もそうだ。こんなところが似なくてもいいのになと思うが、それが彼らの個性なのだろう。
諦めてコードを渡す。カイトはひざまずき、首の後ろにコードを繋ぐと目を閉じた。
そして、数十秒時間が流れる。
「え?」
少し間が抜けた声だった。カイトが思わず目を開けて、眠っているカイトの顔を見た。見たところで答えたりはしないのだが、確信が欲しかったのだ。そして、カイトの口を通して出てきたもう一人のカイトの言葉に博士とメイコはぎょっとした。
「きょうだいをたすけて?」
専用の機能を持つアンドロイドでもない限り、簡易型の接続しか出来ない。簡易型は言語による疎通は不可能で、気分のようなものが感染することはあっても、はっきりしないものになってしまう。また、どちらかが専用機能を持っていたとしても、明瞭な言葉の伝達は出来ない。数個の単語を断続的に伝達するに留まる。
眠っている方のカイトは専用機能を持っているわけではない。だから今回解析が出来ればと言った博士としても、信号自体の出所やその種類がわかれば良かったのだ。
それがどうだ、今彼は明確な言葉を発した。多分それは今眠っているカイトの言葉だ。
詳細はわかるかいと博士が聞いた。カイトは、何も答えず、もう一人の自分の顔を見ている。
突然、カイトは自分につないでいたコードを引き抜いた。ブチっという嫌な音がして、おもむろにコードを放り出すと、少し遠くに落ちる。その行動の意味がメイコには全くわからなかったし、博士にもわからなかった。どうしたのか聞こうと少し上げられた手が止まる。カイトが大きなため息をついたためだ。
そして立ち上がり、博士に向き合うと、また大きくため息をついた。
「開発部にあるメンテナンス室、あそこのコンピュータにウィルスが潜んでいます。第二世代以降のボーカロイドに感染すると、そのまま全データを消去してしまうような強力なものだそうです。昨日、こいつが持ち出されるときにコンピュータに入れられたので、メイコ、さんには伝えられなかったと」
博士は、そうなのかと納得する。それは急がなければいけない事態だ、とりあえず開発にそれを伝えなければ……いやいや待て待て、その前に、どういう原理なのかを聞かなければならない。今聞かなければ逃げられてしまいそうだ。
「えぇと、どうして言葉がわかるんだい。簡易型の接続では不可能なはずだ」
妙に子供のような顔をされた。まるで、出来ないものなんですかとでも言うような、純粋な表情。首をすこしひねって、彼は言葉を探しているようだ。
「……出来ないものなんですか?」
予想通りの言葉が出てきて博士は脱力した。専門のアンドロイドでもない限り出来ないものだ。
「君は専用のアンドロイドじゃないだろう」
「そうですが、簡易型でも出来るでしょう」
「出来ないよ。気分的なものは出来るけど」
じゃあ珍しいんですねとカイトは言った。そう言う問題ではない。
「ああでも、ぼくら同士でしか出来ないんですよ」
「同型でしか出来ないということ?と言うことはあの天才さん謹製かな……まだまだ謎がいっぱいだねぇ、カイトは」
博士はそう言ってため息をついた。
話を聞いていたメイコは、かがんで寝ている方のカイトをまじまじと見ている。起きてくれないかと思ったが、無理だろうと言うこともわかっていた。
そんなメイコに起きている方のカイトはこう言った。
「メモを受け取ってくれてありがとう、だそうですよ」
メイコはどういたしましてと言った。立ってはいないほうに向かってだった。そして、顔を上げた先にいるカイトに向かって言った。
「あなたも、ありがとう。楽になるのに、とかなんとか言ってたけど、助けてくれたじゃない」
「別に、お二人が困っているようだったから助けただけです。前に言った話も本心ですから。楽をするんだったら楽する方法がいくらでもあるのに、こいつはそれをしてないだけなんだ。あんまり優しくすると付け上がる。良くないですよ」
「さっきから思ってたんだけど、そういう言い方はダメよ、良くない。双子のようなものなんでしょ」
「別に関係ないでしょう、あなたには」
「関係ある。私は、あなたたちの、姉なの」
毅然とした声、態度、はっきりとした強い意志、それが感じられる。カイトはなんだか困ってしまった。そんなことを言われても困ると思った。その通りだが今更だ、だとか、ぼくは姉だとは思っていない、だとか、頭をよぎった。だが、どれも言葉にはならなかった。答えないという行動でしかカイトは答えを示せなかった。
それよりしばらくして、地元の警察だの応援だのが来てその場はごった返した。博士とメイコは多少の事情を聞かれた後、一度研究所に帰ることとなり、結局一度も起き上がることのなかったカイトは開発部に引き取ってもらうこととなった。また彼は修理のために開発に送られることになったわけだが、ずっと起き上がらなかった理由はわからない。大事でなければいいがと博士は思った。
もう一人のカイトはあの後戻らなければいけないと言って、別れ際にメイコと博士に対しこう言った。
「ぼくから見れば価値のないやつですが、あなた方にはそうではないようですから言っておきます。今年のクリスマスのケーキは多めに用意しておくのがいいと思いますよ。あいつも甘いもの好きなので、他の人の分も食べてしまうかもしれませんから」
カイトはそう言ってさびしく笑った。
ボーカロイドは季節のイベントがあると一気に忙しくなる。この12月の終わりというのは、クリスマスイヴがあり、クリスマスがあり、そして年末年始と、忙しさも極まっている。
ミクは体があと三つ欲しいと思った。だが、今のところ分裂できるわけでもないし、代わりがいるわけでもない。さしあたり、スケジュールの合間を縫って大きく息を吐くのが精一杯だ。
さて、そろそろクリスマスも終わろうかと言う時間、ボーカロイドとしての仕事を終えた四人は研究所に帰るため車の中にいた。8人乗りのこの車の二列目にミクとメイコが、リンとレンを三列目に乗せて、運転は研究所員の新井が担当している。運転手をさせたことをメイコが謝ったところ、新井はイイ人もいないからと苦笑していた。こんな仕事だ、出会いがあまりないのだろう。そのことがまたメイコを申し訳なくさせた。
新井がほとんど聞こえないようなボリュームに落としたラジオを流し始める。今日はクリスマス特集で、曲にまつわるエピソードと共にリクエストされた音楽を流しているらしい。
三列目のシートではレンとリンがうつらうつらと揺られている。最近仕事に慣れてきたと言っても、この忙しさははじめてだったらしく、二人はここ数週間暇があればずっと寝ているのだ。夢の国に誘われているのを邪魔しないように、メイコとミクは小声で話すことにした。
「疲れたぁ」
「余裕が出てきた証拠よ」
自分の膝に突っ伏したミクにメイコはそう言った。
「確かに去年は疲れたって思う暇すらなかったし、私、慣れてきたのかな」
「そうね、多分」
「メイコ姉さんもそうだった?」
ミクが顔を上げてメイコを見る。メイコは優しく微笑みながら言った。
「ええ。初めは目が回るほど忙しくて、忙しいとか疲れたとか、気が付く余裕もなかった。でもちょっと時間が経ってくると、疲れてるなって気づくの。それで疲れが取れるわけじゃないんだけど、どれくらいまでは大丈夫なのかわかるようにはなったと思うわ」
「どれくらいまで大丈夫か、か。無理して動けなくなったら意味ないものね」
「そう。それに、一番まずいのは何も感じなくなった時なのよ。博士からの受け売りなんだけど」
へぇ、とミクは頷いた。なんとなく、なんとなくではあるがそれはわかる。
「今年のリンちゃんとレンくんにはさすがに無理かな」
「今日は寝かせておきましょう。限界の設定を覚えだすのはもっと後でもいいわ」
二人は後ろを伺う。リンとレンがすやすやと小さな寝息を立てている姿はまるで天使のようだ。その姿を確認すると、ミクとメイコは疲れにくい少し崩した座り方で流れる街の風景を観賞し始めた。店を彩るクリスマス飾りのお陰か、今日は一段とキラキラとしている。
数十分そうしていた。あと少しで研究所に着くという時間だ。
突然ラジオの音が大きくなった。ミクとメイコはびっくりして運転席の方を見ると、新井は何か浮かれているような雰囲気を漂わせている。リンとレンも、音に気が付いて目を覚まして、何が起きたのかと目をこすっている。
ノイズが乗ったラジオからは、妙なアクセントをつけた声が聞こえている。
『……本日のミュージックプレゼント、一曲目は……にお住まいの、メイコさんとミクさんとリンさんとレンさんへです。……ボーカロイドたちと同じ名前なんですねぇ、偶然でしょうか。私は初音ミクちゃんの大ファンで、ミクちゃんって名前を聞くとついつい反応してしまうんですが、あ、関係ない話ですね。えー、贈り主は……にお住まいのカイトさん。何度か死に掛けましたが本日無事退院します、とのことです。うわぁ、助かってよかったですねえ』
流れてくる言葉の中に聞きなじみのある名前を聞いて、ミクたちは目を見張った。誰かが冗談でラジオ番組に送ったのだろうか。偶然だとすればすごい話だ。
ラジオはまだ続いている。
『では曲にいきましょう。メッセージは、‘迷惑も心配もかけた、親愛なるきょうだいたちへ’。タイトルは、We wish you a Merry Christmas、です。どうぞ』
そうして音楽が流れ出した。クリスマスによく聞く曲だ。きれいで、暖かい歌が車の中いっぱいになる。
「……ねぇ、今のってさ、偶然かな」
「さあ……」
リンが呆けた声でもらすと、隣にいたレンが答えた。困惑したミクはメイコを見ると、メイコは困った顔をする。
歌が終わるほぼ同時に研究所についた。
ミクたちはさっきのラジオが気になって仕方がない。そんな四人に、新井がメリークリスマスと言って振り返り、窓の外を指差した。
メイコは事態を確認すると、呆れてため息をついてしまった。
指の先に居た彼は車に近寄ってくる。新井が二列目と三列目の窓を開けると、冷たい空気が車内に入ってきた。
ニコニコと笑っている彼、カイトは、やぁと手を上げると、懐かしい声でお決まりの文句を言った。
「メリークリスマス!」
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