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『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』文章保管用ブログ。
Posted by - 2024.11.22,Fri
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Posted by ささら - 2008.12.14,Sun
帰還1の続き。
ゴタゴタし始め。

 12月というのはボーカロイドたちも忙しいが、メンテナンスがあった翌日、メイコは休みを貰っていた。
 正確には、博士に休むように言われていたのだ。
 日帰りで開発部まで行くのは堪えるもので、メイコも案の定くたくたになり、昨日は帰ってすぐ寝てしまった。
 起きてシャワーをざっと浴び、朝食を済ませると、メイコはリビングで一休みすることにした。
 博士はパンを平らげると早々に自分の研究室に篭っている。ミクとリンとレンは朝から仕事である。
 静まる部屋の中、メイコはふぅと息を吐いた。
 昨日のあれはカイトなのか。何も聞けず仕舞いで帰ってきてしまったため詳細はわからないが、開発部でカイトと同じ顔のアンドロイドと会ったのは間違いないのだ。
 別人か本人か、博士に聞けばわかるかも知れない。
 研究室に聞きに行くことにしたメイコはリビングを出ようとする。
 通りがかり、電話の横のメモ用紙が見える。
 そのメモ用紙ですっかり忘れていたことを思い出した。
(あの紙)
 そういえばと思い自室に戻ってコートのポケットを確認する。
 中から出てきたのは小さな紙切れだ。
 何かの紙を破ってメモにしたようで、切り口が荒々しい。
 メイコはガサガサとメモ開く。
「12/7、3:30、新←→E-587?」
 急いでいるのがありありとわかる走り書きだった。不安定な場所で書いたのだろう、文字がガタガタとしている。
 よくわからない文字の羅列だ。
(日程?矢印は何を指しているの?)
 少し考えるが見当もつかない。
 これも見せればわかるかもしれないと紙切れを持ち、メイコは廊下に出た。

 さて、その博士の方といえば、困っていた。
 今日予定の来客についてである。
(まずいな~)
 客がではなく、メイコが今研究所にいることがだ。
 メイコのせいではない。博士がメンテの次の日は休むように言っていたのを、すっかり忘れていただけなのである。
 外出させようかどうしようか、自分の研究室で迷っていると、ドアをノックする音が聞こえた。
 メイコだ。
 ちょうどいいと仕方ないが入り混じり、まあいいかと結論付けてメイコに外出するように言おう立ち上がった。
 すると、チープなアラーム音が聞こえる。入り口に誰かが来た合図である。
 悪いタイミングというものは存在する。厄日か何かかと博士は思うしかなかった。

 客が来たからと急いで門まで向かう博士を追ったメイコは、門の先を見ると、ぎょっとして目を凝らす。
「カイト……!?」
「の、もうひとり」
 博士はそう補足してから門のロックを解除する。
 そこには二人の男が立っていた。
 黒いロングコートを着た黒髪の男は博士に対し名刺を渡すと、藤原と名乗った。声は高くもなく低くもなく、中背で顔も美形ではないが見れないほどではないという、まさに普通を地で行く人物だ。
 その藤原の少し後ろに控えていた紺のコートの男は黙って頭を下げる。顔や背丈はカイトと同じ、ただトレードマークとも言えていた青いマフラーだけがない。
 メイコは彼を見たことがある。
「あなたは……」
「……どうも」
 彼、カイトは無表情でそう言っただけだった。
 元々彼はメイコたちと同じ場所で生まれたボーカロイドだ。今ここにはいないカイトと同時に作られ、向こうをb、そしてここにいるカイトはcと呼ばれていた。だが、とある事情によって開発より脱走し、隣にいる男、つまり藤原に保護された。会社としてどう思っているのかメイコは知らないが、何か取引があったらしく、追われることも連れ戻されることもなしに今に至っている。
 挨拶もそこそこに研究所内へ案内し、リビングのソファに藤原と博士が向き合って腰を下ろす。メイコは博士の隣に、カイトは藤原の後ろに立つ。
「それで、本日は何用で」
 博士がそう問いかけると、藤原はスーツの内ポケットから写真を取り出した。
「この男、見覚えありませんか」
 写真には地味めな男か写っていた。目の周りの隈、無表情。
 メイコは記憶の中に何か掠めるような感覚に首をかしげた。
(どこかで……どこだったかしら……)
「うーん、僕はないねぇ」
「そうですか……。ああ、それと、会社で変わったことはありませんか?例えば物がやたらとなくなるなどの」
「会社でと言われても、僕のところは研究所で人も少ないし、全体のことはわからないね」
「ええ、そうですよね」
「ひとつ聞きたいんだけど、なんでウチの研究所に?本社に聞きに行ったほうが」
 博士が聞くと、藤原は困りながら曖昧な返事をしている。
 何か隠している。
 博士は突付こうと思い、口を開きかけると、藤原の斜め後ろに控えていたカイトが突然言った。
「マスターは今日プライベートなんです」
「カイト!」
「隠すから怪しまれるんですよ」
 カイトのため息とその表情が呆れたと言わんばかりだ。
 藤原は悔しそうな顔でうっせーなと悪態をつき、博士に向かって言った。
「カイトの言うとおり、今日は仕事じゃないんで。カタい証拠がないと動けないんすよ、ウチは。だから証拠が出るまで個人で動かざるを得ない」
「はぁ、そちらの仕事も中々大変ですねぇ」
「しかもこちらの本社とはちょっと貸しも借りも多いので、今はあまり関わりたくないっつうか……で、個人的に知り合いの人から聞こうかと」
 ひどく苦い顔で言う。どうやら彼らと会社の間には事情があるようだ。
 完全に無視された格好のメイコは、状況がよく飲み込めていない。とりあえず会話が途切れたこの瞬間に一番聞きたいことを問いかけた。
「あの、何の仕事なんですか」
「まあアンドロイド関係の警察みたいなもんです」
 藤原は苦笑しながら答える。それでメイコにもわかったので深く聞かない。
 しかし藤原のような仕事の人間が、もうひとりのカイトを連れていると言うのは皮肉だなとメイコは思った。
(いえ、むしろ、そういう立場だからこそ彼を引き取れた、そういうことなんでしょうね)
「で、どういう事で追ってるんですか、この男」
 博士が単刀直入に聞く。困り顔を真面目な顔に変化させて藤原が答えた。
「アンドロイド製造メーカー数社からいくらかのデータが盗まれています。とある組織経由で他国にデータが渡っており、軍事に流用されることを国が恐れている。この男はその組織に接触したことがあって、要するに目を付けていたんですが、半年前から行方がつかめない。身分を偽っているようだし、整形している可能性も高い。スパイ行為をする可能性もあるので、早急に見つけたいんです。あいにく目星が付かないので、今地道な聞き込み中というわけです」
「はー、大変だ」
 好奇心を抑えられなさそうな態度の博士が相槌をうった時、ちょうど電話の呼び出し音が鳴り出した。
「お、電話~」
「私出ます」
 メイコ急いで電話に向かい、博士と藤原ともうひとりのカイトが見守る中ガチャリと受話器を取る。
「……はいこちら……あ、はい、博士ですね、少々お待ちください。……博士、開発から電話です」
 保留を押すと、急いでいるみたいですけどとメイコは伝えた。
「研究所の名乗りもさせてくれないのはおかしいね~。なんだろ。すいません、ちょっと失礼して」
 藤原に軽く頭を下げながら博士は電話まで行き、受話器を耳に当てると保留を解除した。
「はい山田です……。は?……ええ、本当ですか?ちょっと待ってください」
 話を聞いた博士は焦った風にメイコの方を見ると、こう聞いた。
「メイコ、昨日メンテナンスで何かおかしいことなかった?」
「おかしいこと?」
 昨日のメンテナンスといえば、まずカイトだ。
「博士、開発部にいた彼、誰です。カイトと同じ顔してました。ずっと眠っていて……誰ですか」
「あ、やっぱ見たのね。会わせるなって言ったのに。そそ、彼、生きてるから」
 予想通りという顔をしている博士のさほど深刻そうではない口調に、メイコは力が抜けた。
 深く考えていたのがバカみたいだ。
 廃棄されたんだと思っていたカイトが生きている。博士の口調からして本人だろう。
 うれしいという思いと同時に、ふつふつと怒りのようなものも含んだ感情がメイコの中を吹き荒れる。まったく迷惑ばかりの、心配ばかりさせる弟だ。
「じゃあ話は早い。その彼、昨日妙なところなかった?」
 妙なところと言われても、普段がわからないからなんとも答えようがない。
 昨日あったことは、眠っている状態のカイトに会ったこと、初めて会う研究員がメンテナンス担当だったこと……そこまで考えたところで、メイコは脳を刺激する何かを感じて、低いテーブルの上に乗っている写真を見た。
 ジッと見る。
 そして、初めて見た時何が気になったのかわかった。いや、電撃が走るように閃いた。
「私、この写真の男見たことある」
「どこで!?」
 メイコは強い口調で問う藤原の方も向かず、こわばった顔で写真を見ている。
「昨日、メンテ担当だった男だ、間違いない!」
「……メイコ、本当にこの男だったんだね?」
「鼻の形は多少違うけど、目元とか、そのままです」
 メイコが答えると、博士は電話で開発の方と少し話してからこう言った。
「その人、今日は休んでいて、しかも今連絡が取れないらしい」
 今日休んでいるのは偶然にしては出来すぎだとメイコは思った。藤原が接触してくるのを知っていて逃げたのではないか。そういう陰謀論染みた妄想が脳内を駆ける。しかし、写真の男と同一人物である証拠はメイコの感覚ひとつだけだ。白黒ハッキリできればいいんだけどねぇ、と、なぜか緊張した顔で博士は言う。
 そこに、話を聞いていた藤原が博士に少し焦った様子で話しかけた。
「すみません、まだ電話繋がってたら向こうの話を聞きたいんですが」
 博士はどうぞと受話器を渡すと、藤原は開発部の人間と会話し始めた。藤原の通話時間は五分もなかったが、じっと経過を見守る博士とメイコには倍以上に感じている。やがて会話が終わり、受話器が置かれた。
「マスター、どうでした」
「ぽいな。会社に入ったのは半年前、なぜか三ヶ月前に鼻を整形したらしいし。あと個人的直観によると黒だ」
「あまり予断で動かないほうがいいんじゃないんですか」
「おいおいカイト、俺、予感とか予想がやけに当たる方だぞ」
「知ってます。直感でそれっぽいと思ったら9割は当たり、ですよね。なぜそれを別のところに生かせないんですか、宝くじとか当ててくださいよ」
「宝くじってやけに当たらんよな。大体、当たりが寄ってくるわけじゃねぇし」
「もう……とりあえず局長に電話した方がいいと思います」
「はいはい」
 カイトに促され藤原は携帯電話を取り出す。数コールで繋がったらしく、小声で話をしている。専門用語も多く、メイコや博士にはよくわからない。
 それにしても、とメイコは思った。要するに件の男は産業スパイの可能性があるわけだ。産業スパイというものは知っていたが、なぜか自分の会社が、正確には自分たちの近いところでそれが起こるとは思っていなかったためか、妙に落ち着かない気分になる。
「開発は今ボーカロイドくらいしか作っていないのに、産業スパイなんて」
「意外とボーカロイドの技術は需要があるんですよ。それと、声のライブラリを欲しがる所もありますから」
 カイトが答える。捕まえる方に属する人物をマスターに持っているだけあって詳しいのだ。
「昔いた天才さんの門外不出データも持ってるからね~。むしろそっちが目的の可能性が高いよ。でも、実際はあるらしいけど場所がわからないとか、パスがわかんなかったりしてさー。はは、持ち腐れ気味なんだよネ」
 博士はメイコに対して言ったつもりだったが、それを聞いたカイトが先に反応した。むっとした顔で吐き捨てる。
「あの人の研究なんて大したものじゃないのに」
「彼の研究はものすごいものだよ、価値はある。君がそれを否定するのはどうかと思うんだけどねぇ」
「ぼく自身が研究の結果だからこそ否定してるんですよ。あの人を天才だとかなんだとか言いますけど、ただの奇人変人の類です、あれは」
 博士の言った‘天才さん’とは、自殺したと言うカイトたちの生みの親の事らしいが、メイコにはなぜここまで卑下するのかがわからなかった。普通のアンドロイドなら自分の開発者が賞賛されるのはうれしいのではないだろうか。
(卑下というより……侮蔑とか、嫌悪に近い気がする)
 カイトの表情を見て彼女はそう感じた。何かあったのだろう。何かはわからないけれども。
「よし、オーケーだ。C社周りで行方を捜してみるだと。まあ、数日中には確保できると思う」
 藤原が携帯をスーツの内ポケットにしまいつつ言う。
 その様子を見ながら、浮かない表情の博士が小声で何か言っている。
「……うーん、相談すべきなのかな」
「博士、なんです?」
 疑問を素直に口にしたメイコを見て、それで博士は決心がついた。上から怒られるし処罰もあるだろうが、正直そんなこと構っていられない。彼女と彼女たちが悲しむことになる可能性が高いのに、手を打たないなどあってはならない。
「藤原さん、あとメイコも聞いて欲しい」
 博士は真剣な顔で、注目されるようにと通るように工夫した声で喋り始めた。
「実は、今電話がかかって来た経緯が、カイトがいなくなったからなんだ」
「いなくなった?」
「開発の人間がさっきいないことに気が付いて、それでメイコが何か知っているかもと電話が来た。メイコが密かに連れ出したのかもしれないと思ったらしい。まったく、見当違いもいいところだ、メイコはそんなことする子じゃない」
「しません、当たり前です!というか、それ、いなくなったって……すごくまずいんじゃないですか、まさか……」
「僕もまさかと思ったし今も思ってるけど、タイミングと状況がなぁ」
 博士の言葉を聞いてメイコは真っ青だ。藤原やカイトは眉間に皺を寄せている。
「マスター、どう思います?」
「今な、ヤな予感しかしてない。つうか無性に、すげぇ急いだほうがいい気がしてる」
 見事な駄目出しだとカイトは思った。藤原の‘嫌な予感’ほぼ必ず当たると仲間内で噂される代物である。しかも、彼は自分の感覚に嘘をほとんどつかない。
「山田博士、多分そちらのカイトもその男も敷地の外だ。こっちでも探しはしますが、すぐには動けません。自社内で色々あるのはわかりますが、そう言う事件臭い話は早く言ってくださいよ……」
「あー……いかんせん社はあのこの扱いに困っている節がありまして。上はまさか狙われるとは微塵も考えなかったとでも言うでしょうねぇ」
「厄介でも周りには気を配って欲しいと上に言っておいてください。一応、天才と呼ばれた研究者の遺作で、あまり情報のないボーカロイドなんて、外部からは機密の塊みたいに見えるってもんなんですよ」
「すいません。狙うとしたらミクあたりかなぁと、思って……」
 ふと、開発中であるはずの新しいボーカロイドの事を思い出した。そちらは大丈夫だろうか。いや、何かあったらもっと開発が慌て、それこそ蜂の巣をつついたような騒ぎになるはずだ。この嫌な感じを受ける静かさは厳重管理が行われている証拠だろう。
 自社の事はそれなりにわかっている。そこから予想できるそれぞれのボーカロイド達に対する扱いの差はそうはずれないだろう。03は優先されるがカイトはそうではないのだ。なんとも不憫な子だと博士は思った。しかし彼はそれを受け入れるしかない。博士もそうであるように。
 とにかく、この件に関してあまり会社に期待できない。藤原もそう思っているようで、紛失届を出すようにとは言わないでいる。
「とりあえず開発の方にもう一度連絡を取って、その男について資料を送るよう伝えますよ」
「なるべく急ぎで頼みます。……しかし、手当たり次第じゃあ多分早さが足りないが、今のところまったく行方が検討つかないな。資料に何かヒントがありゃいいけど。都合よくダイイングメッセージが、とか、手がかりがあるといいんだけどな」
「そんな都合のいい事あるはずないでしょう。マスターが当たりを引き寄せられるって言うならあるかもしれませんが、予感が当たるだけですからね、マスターは」
「なんだよ、刺々しいな。心配なのか?」
「は、そ、そんなわけないです!ありませんから」
 全力で否定するカイトに藤原は声を立てて笑う。その声で、少し空気が和らいだようだった。
 メイコも緊張が少し解れて、肩から力を抜く。正直疲れたと思った。
(カイトのことは心配だけど、私ができることは今のところ何も……)
 ひっかかる。
(何も、何も知らない……?)
 待てよ、あの紙、あのメモは関係あるんじゃないのか。カイトから受け取ったものなのだ。それに、博士にあのメモを相談しようと会いに言ったのだし、関係ないのだとしても見せるべきだろう。
「博士、これを」
 そう言って持っていた紙切れを博士に見せる。藤原も横からそれを覗き込んだ。
「これ、どうしたの」
「昨日、メンテナンスの部屋にカイトが寝てて、誰もいなくなったときに渡されたんです」
 メイコの言葉を聞いて、藤原がうわぁとため息をついた。こんなのアリかよと小さく言っている。
「メイコ、渡されたって、起きて話したの?」
「多分眠っていたと思うんですが、なぜか腕だけが動いて私の手を掴んだんです。何か持っているのがわかって、とりあえず受け取ったら、それがこのメモでした。それ以外は少しも動かなくて……それに、すぐ連れて行かれました」
 博士は考え込んでいる。眠っていたのに、腕だけ動いた?メモを隠し持っていた?
 その横にいた藤原が、紙に書いてある文字を見て言った。
「これ、最初の方は日付と時間か。後ろは……ううん?場所か?しんひだりみぎ、しんさゆう、しんやじるし……?」
「新横矢じゃないですか?たしか横矢の港は新横矢って呼ばれてますから」
 カイトが言い、ああなるほどなと藤原は返した後、数秒してから嫌そうな顔でカイトの方を見る。
「単純過ぎるだろそれは」
「これ多分bが書いてますよ。あいつは色々と頓知をきかせたりはできません。単純に考えていいと思います」
 やけに説得力がある。
「もしもそうだとすると、12月7日、朝だか昼だかの3時半に、新横矢のE-587で何かあるってことか……明日じゃねーか。E-587はなんだろうな、番地か?」
 ぼやくように言う。それを聞いたメイコが、それじゃあとつなげた。
「港なら、コンテナや倉庫の番地じゃないのかしら」
「倉庫の番号っぽいな。照合作業してもらって……着く前に結果が出るな。よし、カイト、お前家帰ってろ。ちっと新横矢行ってくるから。予想通りならリミットは今日中だ。時間がないから一か八かでも掛ける」
 もちろん上司に連絡して秘密裏に動いてもらう、と藤原は言った。
 彼が急いでいる理由は港だからだ。輸送の要でちょうど荷物の積み替えを行う場所。何かに紛れ込ませてそのまま海外に飛ばれれば追うのが難しくなる。その程度のことはメイコや博士にもわかった。
「ちょっと待ってください、ここまで関わったらさすがに帰れと言われても帰れません。ぼくも行かせてもらいます」
「こっちはあんまり危ねえとこには連れまわしたくないんだよ」
「嫌です。大体、研究所行くからついて来いって言ったのマスターじゃないですか」
「それはいい機会かと思ってだな!頼むから聞いてくれよ」
「ナニナニしてやったんだから俺の言うことを聞け?押し付けがましいですよ」
「お前今日強情すぎんぞ」
「それはこちらの台詞です」
 いつの間にか言い争いのようになってしまった二人にメイコと博士は唖然としている。
 そして、メイコはなんとも言えない気持ちになった。カイトは今、怒りと、頑として動かない意志を併せ持つ表情をしている。研究所にいたあのカイトがこういう表情をしたことがないのに、もうひとりが今ここで、その顔で言い争っている。言葉にならない、妙な気分だ。
 それにしても、喧嘩は一向に終わらない。
 こんなことをしている場合かと考える。時間がないのだ。人員も多くは動かせないだろうし、探す時間を増やすしかない。あるいは、人手を増やさなければ。危ないかもしれないが、メイコは多少格闘の心得があるし、高い優先順位に博士を守ると言うのがあるので、博士がいれば人間を攻撃できないわけではない……。メイコは必死に足手まといにならない理由を考えている。
 何もしないより何かをしたかったのだ。
「……博士、あの私も行」
「とりあえず上に連絡を取ってみる。あと、僕たちも一緒に連れてって貰おう。人が多いほうがいいだろーしね」
「あ、はい!」
 博士も自分と同じ事を考えていたという事実がメイコを勇気付けさせた。


次:帰還3

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