『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』文章保管用ブログ。
Posted by ささら - 2008.04.12,Sat
レン視点の短編。
4月初旬から中旬にかけてくらいの時期。
4月初旬から中旬にかけてくらいの時期。
「ひゃあああああああああああ!!!!!!!」
さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする……ではなく間抜けな悲鳴がこだました。
「レンね」
「レンだねー」
冷静なメイコの言葉にカイトが鸚鵡返しで答える。
「どうしたんだろ、大丈夫かな」
ミクは朝食の皿を並べながら心配そうにレンの部屋のほうを見た。
「今日は珍しくリンのほうが早起きしてたから、リンが何かしたんでしょ」
「わたしがなにー?」
リンの声が聞こえた。リビングの入り口を見やると、リンが立っている。
ということは。
「わ、私見てきます!」
そういうとミクは縞模様のエプロンを外しながら駆け出した。
レンには苦手なものがある。
一つはリン。あらゆる意味で苦手だ。何でも押し付けるし、いたずらしてくるし、人の言うこと聞かないし、ゲーム機は取るし返してくれないし、時々すげー不安定になるし、でもほっとけないし。
一つはカイトだ。ぼえーっとしてて注意力ないし、すぐ転ぶし、大体歌えないからなのはわかるけど、こっちが歌ってるときにあんな顔するなんて卑怯じゃないか。
そしてもう一つが、この、レンの目の前に居る茶色のふわふわした物体。
「な、ななななななななんでここに……!!?!」
ふわふわした物体は白いシーツにぺたっと座って「にゃー」などと気が抜けるような声をあげた。
「レンくん大丈夫!?」
ミクが、勢い良くレンの部屋のドアを開ける。
ドスンという音が響いて、レンとふわふわした物体がビクッと体を揺らせた。
レンが恐る恐る見ると壁には穴が一つ。ドアノブがちょうど壁にぶつかって穴を開けたらしい。
(ミク姉…こえええええええええ)
レンは逆らわないようにしよう……と考えてミクを見る、と、ミクは肩を振るわせていた。
そして。
「か、かわいいぃぃ!!!!!!!!!!」
絶叫して一直線にふわふわした物体に飛び込む。これが世に言うルパンダイブ……いや違うか。
ふわふわした物体は飛び上がり、一目散にレンの後ろにまわった。
「ああ、ねこちゃん!どうして!?」
(どうしてもなにも、ダイブしてきたら逃げるだろ普通)
と思ったが口には出さない。レンは無謀なことはしない主義だ。
「ねこちゃーん、いじめないよー、ねこちゃーん」
ミクはそういいながらレンの後ろにいるふわふわした物体、つまり茶色のネコを捕まえようとしている。ネコはレンに登ったり体の隙間に入ったりして必死にミクから逃げる。
そうしてたっぷり30秒ほどたったところで、レンはネコにくっつかれた事に気がついた。
「うひゃあああああああああああ!!!」
本日二度目の悲鳴であった。
「なんでネコが研究所に?」
「さぁ、誰かが連れてきたとか」
「ネコ飼ってる研究員とかいたっけ、所長の家で犬飼ってるのは知ってるけど」
「そうなの!?見てみたーい、所長に連れてきてってお願いしてみようかなー」
「リン、やめてあげなさい。所長単身赴任だから残してきた家族のことつっつくと泣くのよ」
「めーちゃんそれでおととい絡み酒されてたもんね」
「カイトは黙ってなさい」
勝手なことを言い合っているテーブルの下では件のネコは出された水を一心不乱に飲んでいる。
レンは出来るだけネコと距離を置こうと、テレビの前のソファに腰掛けて、オレンジジュースを一杯一気に飲み干す。ミクがニコニコとネコを眺めているのを見てミク姉ってネコ好きなのかなぁ……とぼんやり思った。
ガチャリという音と共にリビングに博士が入ってくる。
「やーおはようおはよう、あ、おそようかな?」
おはようございますとめいめいに挨拶、見事にタイミングの合わない合唱になった。
「ん、んんー、おやぁ。動物を飼うときはちゃんと許可取らなきゃダメだよーこっちもデータ取りのことを考えなきゃならんしー」
博士はネコを見ると、本社にどう説明して許可取ればいいのやらとぼやくので、メイコがすかさず状況を説明する。
「ミクたちが勝手につれてきたわけじゃなくて、朝気づいたらレンの部屋にいたみたいなんです」
その言葉にリンが続ける。
「わたしが起きたときにはいなかったよー」
「僕が起こしに行った時もいなかったよ」
「え、起こしにきたのかよ」
うんーとカイトはレンに返事を返す。でもレン全然起きなかったし、気持ち良さそうに寝てたから起こすのやめちゃったとはカイトの弁。
「ちゃんと起こせよ」
「でもレン寝るの好きでしょう?」
笑顔でカイトが言うと、うあーとレンが顔をしかめてそむける。やはりこの人は苦手だ。
「次からちゃんと起こせよ!」
「うん、ごめんなさい」
レンのぶっきらぼうな言葉にカイトは母親に叱られた子供のような声で謝った。
(ああーこれだから苦手なんだよ)
しょげた顔をしているカイトにレンは内心困惑する。そこまで強く言ってないのに。しかもこのパターンはよくない。確実にリンが……。
「レン、カイトにぃいじめないでよ」
「はぁ?いじめてねーよ」
「いじめてるよ。カイトにぃ泣きそうじゃない!」
「いじめてねーって!」
「いつもレンはカイトにぃにキツいこと言って!もうちょっと優しくしなよ!」
「キツいこと言ってねぇって!リンこそカイトに甘すぎだろ!」
「二人とも!今の言葉気にしてないし、レンは厳しいこと言うけど優しいよ!だからケンカはやめて、ね?」
ケンカをはじめたリンとレンと、まさしくオロオロという効果音が似合いそうな状態のカイトを軽く無視して、メイコは水を飲み終わって満足げにミクに懐くネコを見る。
「それでこのネコどうしましょう。そもそもどういう風に進入したのかもわからないし」
「聞いたらねこちゃん答えて……くれないよね、やっぱり」
「ボーカロイドといえどネコ語はさすがにわからないわね。博士どう思います?」
「誰かの飼い猫じゃないかな、人に良く懐いてるし。ウチの所員か誰かのかもねぇ」
「勝手に入ってきたのか、それとも誰かが連れてきたのかしら。うーん」
ううーんと三人で唸る。ネコがミクの手の中でにゃーと鳴いた。
研究所の所員に聞いて回ってみたが収穫は得られず(それに所員の一人は風邪で昨日早退してそのまま今日は休みらしい)、苦労がたまっただけ。結局今日は研究所で世話することになった。
博士は、まあ動物を飼う実験もやろうと思ってたしとか言って世話することを認めた。ネコがにゃーにゃー鳴いていたのにほだされた訳ではない、とは博士の弁である。
メイコ姉はネットでネコの世話の仕方を調べてくると、早速ネコ用のベッドや缶詰を買って来た。案外ネコ好きなのかも。
リンとミク姉はネコに構いまくっている。ちょっとネコが嫌なそぶりを見せているが全く気にしないらしい。
カイトはネコには構わず夕飯の支度だ。料理が少しずつできるようになってきたので夕食担当になったからというのもあるが、どうもネコに関心がないようだ。ネコの方もカイトを気にも留めていない。
ネコはさっきから俺の足元をうろうろしている。毛があたってくすぐったい。むずむずする。
ミク姉がネコじゃらしをぱたぱたさせながらオレを見て不満そうな顔をした。
「ねこちゃん本当にレンくんのこと好きなんだね、さっきかずっとレンくんの傍を離れないよ。うらやましいなー私もねこちゃんと遊びたいのにぃ」
「オレは、苦手なんだけど」
こういうふわふわしたものに好かれるたちらしい。
やばい、蹴り飛ばしそうで怖い。
「レンが苦手なのはちっちゃいからでしょ。前もひよこに一々びびってたもんね」
「ひよこがいたの?」
「ほら、近くのホームセンターに遊びに行ったときに。笑っちゃうんだよ、籠の中のひよこにびびってんの」
「リン、怖がってなんか」
「今だって蹴り飛ばしそうで怖いんでしょ」
ご明察、リンには隠し事できない。
「そんな怯えなくても大丈夫なのにー」
とミク姉がねこじゃらしをあちらこちらへ移動させる。ネコはねこじゃらしの方へ目線と行ったり来たりさせながら、しかしオレの足もとから動かない。どっか行ってほしいんだけど。
「好かれるのはいいことじゃないかな。小動物は悪意のない存在に懐くっていうし」
カイトがキッチンカウンターから皿を移動させながら言う。そろそろ飯か。
「悪意がないんじゃなくて根性なしなだけだよ」
「そう?ネコは初見からレンに懐いてたし、やっぱり人徳じゃないかな」
「レンが人徳、ねえ」
リンがじと目でこちらを見る。同類と思われてるんじゃないかとオレは思うんだけど。
「どっちかっていうと同類って思われてるだけじゃないー?」
リンと思考が一致するのが我ながら怖い。機械でも双子のシンクロニティってあるみたいだ。
ネコは飯の匂いを嗅ぎつけて鼻をフンフンと鳴らしだした。
それを見たメイコ姉が猫缶をお皿に開けてネコの目の前に出す、するとネコは一目散に食べ始めた。
「やっぱり飼い猫みたいね。出されたものに警戒しないわ」
たしかに、ずいぶん人懐こく警戒心が薄い。
しかし妙だ。なんでオレの部屋にいたんだろう。
「さて、ネコも食べ始めたことだし、僕らも夕食にしよう。今日はシチューだよ」
「ねぎはぁ?」
「はい、ミクのはこれね。ネギたっぷり入れました」
ミク姉はネギにこだわりすぎだと思う。
その夜、明日近所の人に聞き込んで見ようと、今日はとりあえず就寝。
ネコは結局オレの周りを離れないので、オレのベッドの一部を占領するようだ。
ミク姉やリンは恨めしそうにオレを見る。特にミク姉は顕著だ。そんなにネコがいいか?
(こんな小さい生き物潰しそうで怖い、大体毛とかも落ちるし……かわいいのはわかるけど)
決まったことだし、ネコが離れないから仕方がないと覚悟を決めて寝床に入る。
ネコはいったんオレの頭をぺちぺちと叩き、そのあとオレの上に乗ってうずくまった。ちょっと重い。
(…………これは嫌がらせじゃないのか?)
と思いながら眠りに落ちた。
起きるとネコはいなかった。
敷地内を手分けして探してみたがどこにもいない。
多分飼い主の所に戻ったんだろうと博士は言った。
ミク姉とリンは大層落胆していて、あまり仕草には出していないけどメイコ姉も寂しそうだ。
オレも夜まであったあの暖かさがなくなって、少しだけ穴が開いたような気持ちになっている。
そんなオレたちを見た博士が何か動物を飼おうかと言うと、ミク姉とリンは「やったぁ」と声を上げて途端に元気になる。現金というかなんというか。
そんな話をよそに、カイトは所員の一人で料理の師匠の新井さん(女性27歳独身・社員寮住まい)と話している。今日の献立についてとか、そんなところだろう。カイトは最初から最後までネコに関わらなかったなとふと思った。
「しかしどこから来たんだろうねぇ、あのネコは」
博士のぼやきにメイコ姉が軽快な声で切り返す。
「案外幻とか幽霊だったのかも知れませんよ」
次:分かれ道の先『右』
裏:真夜中のネコと秘密主義
さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする……ではなく間抜けな悲鳴がこだました。
「レンね」
「レンだねー」
冷静なメイコの言葉にカイトが鸚鵡返しで答える。
「どうしたんだろ、大丈夫かな」
ミクは朝食の皿を並べながら心配そうにレンの部屋のほうを見た。
「今日は珍しくリンのほうが早起きしてたから、リンが何かしたんでしょ」
「わたしがなにー?」
リンの声が聞こえた。リビングの入り口を見やると、リンが立っている。
ということは。
「わ、私見てきます!」
そういうとミクは縞模様のエプロンを外しながら駆け出した。
レンには苦手なものがある。
一つはリン。あらゆる意味で苦手だ。何でも押し付けるし、いたずらしてくるし、人の言うこと聞かないし、ゲーム機は取るし返してくれないし、時々すげー不安定になるし、でもほっとけないし。
一つはカイトだ。ぼえーっとしてて注意力ないし、すぐ転ぶし、大体歌えないからなのはわかるけど、こっちが歌ってるときにあんな顔するなんて卑怯じゃないか。
そしてもう一つが、この、レンの目の前に居る茶色のふわふわした物体。
「な、ななななななななんでここに……!!?!」
ふわふわした物体は白いシーツにぺたっと座って「にゃー」などと気が抜けるような声をあげた。
「レンくん大丈夫!?」
ミクが、勢い良くレンの部屋のドアを開ける。
ドスンという音が響いて、レンとふわふわした物体がビクッと体を揺らせた。
レンが恐る恐る見ると壁には穴が一つ。ドアノブがちょうど壁にぶつかって穴を開けたらしい。
(ミク姉…こえええええええええ)
レンは逆らわないようにしよう……と考えてミクを見る、と、ミクは肩を振るわせていた。
そして。
「か、かわいいぃぃ!!!!!!!!!!」
絶叫して一直線にふわふわした物体に飛び込む。これが世に言うルパンダイブ……いや違うか。
ふわふわした物体は飛び上がり、一目散にレンの後ろにまわった。
「ああ、ねこちゃん!どうして!?」
(どうしてもなにも、ダイブしてきたら逃げるだろ普通)
と思ったが口には出さない。レンは無謀なことはしない主義だ。
「ねこちゃーん、いじめないよー、ねこちゃーん」
ミクはそういいながらレンの後ろにいるふわふわした物体、つまり茶色のネコを捕まえようとしている。ネコはレンに登ったり体の隙間に入ったりして必死にミクから逃げる。
そうしてたっぷり30秒ほどたったところで、レンはネコにくっつかれた事に気がついた。
「うひゃあああああああああああ!!!」
本日二度目の悲鳴であった。
「なんでネコが研究所に?」
「さぁ、誰かが連れてきたとか」
「ネコ飼ってる研究員とかいたっけ、所長の家で犬飼ってるのは知ってるけど」
「そうなの!?見てみたーい、所長に連れてきてってお願いしてみようかなー」
「リン、やめてあげなさい。所長単身赴任だから残してきた家族のことつっつくと泣くのよ」
「めーちゃんそれでおととい絡み酒されてたもんね」
「カイトは黙ってなさい」
勝手なことを言い合っているテーブルの下では件のネコは出された水を一心不乱に飲んでいる。
レンは出来るだけネコと距離を置こうと、テレビの前のソファに腰掛けて、オレンジジュースを一杯一気に飲み干す。ミクがニコニコとネコを眺めているのを見てミク姉ってネコ好きなのかなぁ……とぼんやり思った。
ガチャリという音と共にリビングに博士が入ってくる。
「やーおはようおはよう、あ、おそようかな?」
おはようございますとめいめいに挨拶、見事にタイミングの合わない合唱になった。
「ん、んんー、おやぁ。動物を飼うときはちゃんと許可取らなきゃダメだよーこっちもデータ取りのことを考えなきゃならんしー」
博士はネコを見ると、本社にどう説明して許可取ればいいのやらとぼやくので、メイコがすかさず状況を説明する。
「ミクたちが勝手につれてきたわけじゃなくて、朝気づいたらレンの部屋にいたみたいなんです」
その言葉にリンが続ける。
「わたしが起きたときにはいなかったよー」
「僕が起こしに行った時もいなかったよ」
「え、起こしにきたのかよ」
うんーとカイトはレンに返事を返す。でもレン全然起きなかったし、気持ち良さそうに寝てたから起こすのやめちゃったとはカイトの弁。
「ちゃんと起こせよ」
「でもレン寝るの好きでしょう?」
笑顔でカイトが言うと、うあーとレンが顔をしかめてそむける。やはりこの人は苦手だ。
「次からちゃんと起こせよ!」
「うん、ごめんなさい」
レンのぶっきらぼうな言葉にカイトは母親に叱られた子供のような声で謝った。
(ああーこれだから苦手なんだよ)
しょげた顔をしているカイトにレンは内心困惑する。そこまで強く言ってないのに。しかもこのパターンはよくない。確実にリンが……。
「レン、カイトにぃいじめないでよ」
「はぁ?いじめてねーよ」
「いじめてるよ。カイトにぃ泣きそうじゃない!」
「いじめてねーって!」
「いつもレンはカイトにぃにキツいこと言って!もうちょっと優しくしなよ!」
「キツいこと言ってねぇって!リンこそカイトに甘すぎだろ!」
「二人とも!今の言葉気にしてないし、レンは厳しいこと言うけど優しいよ!だからケンカはやめて、ね?」
ケンカをはじめたリンとレンと、まさしくオロオロという効果音が似合いそうな状態のカイトを軽く無視して、メイコは水を飲み終わって満足げにミクに懐くネコを見る。
「それでこのネコどうしましょう。そもそもどういう風に進入したのかもわからないし」
「聞いたらねこちゃん答えて……くれないよね、やっぱり」
「ボーカロイドといえどネコ語はさすがにわからないわね。博士どう思います?」
「誰かの飼い猫じゃないかな、人に良く懐いてるし。ウチの所員か誰かのかもねぇ」
「勝手に入ってきたのか、それとも誰かが連れてきたのかしら。うーん」
ううーんと三人で唸る。ネコがミクの手の中でにゃーと鳴いた。
研究所の所員に聞いて回ってみたが収穫は得られず(それに所員の一人は風邪で昨日早退してそのまま今日は休みらしい)、苦労がたまっただけ。結局今日は研究所で世話することになった。
博士は、まあ動物を飼う実験もやろうと思ってたしとか言って世話することを認めた。ネコがにゃーにゃー鳴いていたのにほだされた訳ではない、とは博士の弁である。
メイコ姉はネットでネコの世話の仕方を調べてくると、早速ネコ用のベッドや缶詰を買って来た。案外ネコ好きなのかも。
リンとミク姉はネコに構いまくっている。ちょっとネコが嫌なそぶりを見せているが全く気にしないらしい。
カイトはネコには構わず夕飯の支度だ。料理が少しずつできるようになってきたので夕食担当になったからというのもあるが、どうもネコに関心がないようだ。ネコの方もカイトを気にも留めていない。
ネコはさっきから俺の足元をうろうろしている。毛があたってくすぐったい。むずむずする。
ミク姉がネコじゃらしをぱたぱたさせながらオレを見て不満そうな顔をした。
「ねこちゃん本当にレンくんのこと好きなんだね、さっきかずっとレンくんの傍を離れないよ。うらやましいなー私もねこちゃんと遊びたいのにぃ」
「オレは、苦手なんだけど」
こういうふわふわしたものに好かれるたちらしい。
やばい、蹴り飛ばしそうで怖い。
「レンが苦手なのはちっちゃいからでしょ。前もひよこに一々びびってたもんね」
「ひよこがいたの?」
「ほら、近くのホームセンターに遊びに行ったときに。笑っちゃうんだよ、籠の中のひよこにびびってんの」
「リン、怖がってなんか」
「今だって蹴り飛ばしそうで怖いんでしょ」
ご明察、リンには隠し事できない。
「そんな怯えなくても大丈夫なのにー」
とミク姉がねこじゃらしをあちらこちらへ移動させる。ネコはねこじゃらしの方へ目線と行ったり来たりさせながら、しかしオレの足もとから動かない。どっか行ってほしいんだけど。
「好かれるのはいいことじゃないかな。小動物は悪意のない存在に懐くっていうし」
カイトがキッチンカウンターから皿を移動させながら言う。そろそろ飯か。
「悪意がないんじゃなくて根性なしなだけだよ」
「そう?ネコは初見からレンに懐いてたし、やっぱり人徳じゃないかな」
「レンが人徳、ねえ」
リンがじと目でこちらを見る。同類と思われてるんじゃないかとオレは思うんだけど。
「どっちかっていうと同類って思われてるだけじゃないー?」
リンと思考が一致するのが我ながら怖い。機械でも双子のシンクロニティってあるみたいだ。
ネコは飯の匂いを嗅ぎつけて鼻をフンフンと鳴らしだした。
それを見たメイコ姉が猫缶をお皿に開けてネコの目の前に出す、するとネコは一目散に食べ始めた。
「やっぱり飼い猫みたいね。出されたものに警戒しないわ」
たしかに、ずいぶん人懐こく警戒心が薄い。
しかし妙だ。なんでオレの部屋にいたんだろう。
「さて、ネコも食べ始めたことだし、僕らも夕食にしよう。今日はシチューだよ」
「ねぎはぁ?」
「はい、ミクのはこれね。ネギたっぷり入れました」
ミク姉はネギにこだわりすぎだと思う。
その夜、明日近所の人に聞き込んで見ようと、今日はとりあえず就寝。
ネコは結局オレの周りを離れないので、オレのベッドの一部を占領するようだ。
ミク姉やリンは恨めしそうにオレを見る。特にミク姉は顕著だ。そんなにネコがいいか?
(こんな小さい生き物潰しそうで怖い、大体毛とかも落ちるし……かわいいのはわかるけど)
決まったことだし、ネコが離れないから仕方がないと覚悟を決めて寝床に入る。
ネコはいったんオレの頭をぺちぺちと叩き、そのあとオレの上に乗ってうずくまった。ちょっと重い。
(…………これは嫌がらせじゃないのか?)
と思いながら眠りに落ちた。
起きるとネコはいなかった。
敷地内を手分けして探してみたがどこにもいない。
多分飼い主の所に戻ったんだろうと博士は言った。
ミク姉とリンは大層落胆していて、あまり仕草には出していないけどメイコ姉も寂しそうだ。
オレも夜まであったあの暖かさがなくなって、少しだけ穴が開いたような気持ちになっている。
そんなオレたちを見た博士が何か動物を飼おうかと言うと、ミク姉とリンは「やったぁ」と声を上げて途端に元気になる。現金というかなんというか。
そんな話をよそに、カイトは所員の一人で料理の師匠の新井さん(女性27歳独身・社員寮住まい)と話している。今日の献立についてとか、そんなところだろう。カイトは最初から最後までネコに関わらなかったなとふと思った。
「しかしどこから来たんだろうねぇ、あのネコは」
博士のぼやきにメイコ姉が軽快な声で切り返す。
「案外幻とか幽霊だったのかも知れませんよ」
次:分かれ道の先『右』
裏:真夜中のネコと秘密主義
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