『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』文章保管用ブログ。
Posted by ささら - 2008.04.11,Fri
ミク視点の短編。
4月初め辺りの話。
4月初め辺りの話。
久しぶりにお休みが取れた。
喜びたいところだけど、あんまり嬉しくない。
「やっぱり桜ほとんど散っちゃってる……」
ここ一週間くらい外に出ていて、昨日の深夜にやっと研究所に帰ってこれた。
外向きの服そのままでおふとんたんにダイブしちゃったくらい疲れていたみたいで、朝起きた後も体が重い気がする。ボーカロイドも疲労を感じるんだけど(稼働時間制限を知らせるためらしい)、なんで寝た後も疲労を感じるんだろう。意味があるのかな。
ともあれ久しぶりの研究所、みんなとお話したいなーと思って行ったリビングは無人。窓から見える桜のまばらなピンク色が寂しくて、私はため息をこぼした。
外は雨でちょっと肌寒い。雨の音は音楽のようで好きだけど、この雨でほとんどの花びらは散ってしまうんだろう。
ザーという音が響く室内、ソファでインスタントのスープを飲みながらぼんやりとテレビをつけると、ちょうどワイドショーでメイコ姉さんが出ていた。スタジオであまり音楽に関係ないような質問に答えている。録画じゃないみたいで、今日は朝から仕事だからいないのか。
メイコ姉さんが朝からいない理由はわかったけど、それにしても静かだ。リンちゃんやレンくんやカイトさん、博士や所員の人はどうしたんだろう。
コーンスープはすっかりなくなって、カップの底に溶けきらなかった粉が残る。少しお腹が空いてる気がするけど、何か探すのも億劫で、目の前のテーブルにカップを置いて、そのままソファに横になる。少し視線を動かすと桜が雨にうたれて、木の下の水溜りに花びらが浮かんでいる。
「結局お花見できなかったなぁ」
予定の日にちゃんと休みを入れたはずだったのに、突然の仕事とメンテナンス兼データ取りが入って私だけ外出、帰ってきた頃にはとうに見頃は過ぎてしまっていた。
初めての花見で楽しみにしていたので、仕事が入ったと聞いたときにはムカムカきてしょうがなかったけれど、ここまで過ぎてしまうとため息が出るだけだ。
別に桜なら今だって見れるし、他の場所でも満開に咲いているのを見た。だけど、皆で一緒に花を見て、お弁当食べて、お話して……。
「お花見、したかったな」
そう声に出すと、怒りとか悔しいとかじゃなくて、悲しいような辛いような、よくわからない気持ちになってきて、鼻のあたりがツンとして顔全体が熱くなってきた。
どうしよう、泣きそう。
こんなことでみっともないと思うと、尚更胸の辺りが苦しくなる。顔に手を当てると目から涙がこぼれてきて、尚更みっともなくて顔を両手で覆う。
「こんな、ことで……私」
涙が何度拭っても止まらない。楽しみにしていたことが、こんなにも辛い気持ちを生むことがあるなんて。
影が差し込んだ気がして目を開けると、カイトさんの顔が目の前にあった。
思わずうわっと声を上げると、カイトさんはふわりと笑って「おはよう」と一言。
どうやらそのまま眠ってしまったみたいだ。壁掛け時計を確認すると昼の一時を過ぎたところで、4時間くらい寝ていた計算になる。つけっぱなしだったテレビには女の人が男の人に詰め寄って、浮気がどうのと激しくまくし立てる。最近過激さで話題になったメロドラマだ。
「おはよう、ずいぶん疲れてたみたいだけど大丈夫?お昼ご飯いる?」
身を起こすと、朝より体が軽くなった気がする。本当に疲れてたみたい。一回伸びをして体をほぐすと正直すぎるお腹がなった。
「うん、必要みたいだね。今用意するから待ってて」
カイトさんはそう言うと台所に引っ込む。
テーブルに置いていたカップがなくなっている。たぶんカイトさんが片してくれたんだろう、後でお礼を言わなくちゃ。
窓の外を見るとまだ雨が降っていた。朝よりは弱くなっていて、小さな水滴がポツポツと地面を叩く。
何かを焼く音とともにおいしそうな匂いがしてきた。この香りは……チャーハンかな。そういえばこの前、手軽に出来るからいいよとカイトさんが話していた気がする。
ふとテーブルの下に半透明のクリアフォルダがあることに気がついた。紙と写真の束が挟まっているけど裏返しになっていて良く見えない。
「なんだろこれ」
気になる。手にとって中身を見ようとすると、できたよーという言葉の不意打ちを受けた。
「うわぁ!びっくりした」
「あ、ごめん。残り物を使った手抜きのチャーハンだけど、食べれる味だと思うよ」
そういってカイトさんは皿とスプーンをテーブルの上に置く。そして、私が持っているファイルに気がついて、ちょうど良かったと切り出した。
「それミクに渡そうと思ってたんだ。お花見楽しみにしてたでしょ?ミクが仕事してる間に桜が満開になったから写真撮っておいたんだ」
それを聞いて写真の束をを取り出して見る。何十枚もの写真には研究所の桜ばかりが映っていた。
「皆で手分けして毎日研究所の全部の桜の木を撮っておいたんだ。雨の日もあって撮りにくかったけど、なるべく同じ時間に同じ場所になってるはずだよ」
言われてみれば、確かに同じ場所から撮っている。
同じ場所からの写真には日付が入っていて並べると日ごとにピンク色が増え、そして減っていくのがわかる。私が仕事に出た4日後くらいがちょうど満開で、写真でもすごく綺麗。
でもお花だけ見たかったわけじゃない。私が楽しみにしていたのは……。
その時、三重奏のただいまーという声がした。メイコ姉さんとリンちゃんとレンくんの声だ。
カイトさんは私にご飯食べててねと言うと、玄関に迎えに行った。細切れにお帰りなさいとか買って来たよという声が聞こえる。なんだろう。
リビングに入ってきたメイコ姉さんは、テーブルに置いておいた写真を見ると満足そうな顔をしていた。
「実は私たちもミクと同じく、ここ一週間くらい予定が入っちゃってバラバラだったのよ」
「そうなんだ」
「だからお花見まだなんだ」
「そうだったんだ……でももう散っちゃってるね。寂しいなぁ」
「でも満開の桜はミクの目の前にあるじゃない?だから今日やろうと思ってるの」
「え?」
満開の桜って……写真?
「みんなで一緒にお花見しましょ。花は写真だけど、どうせこういうのは食い気優先だからいいの。ね、ミク」
メイコ姉さんは晴れ晴れしい笑顔でそう言い、下げている近くのスーパーの袋から飲み物や食べ物を取り出しはじめた。
後から入ってきたカイトさんが、「用意するね」と言って台所へ、リンちゃんとレンくんが「ケーキ冷蔵庫ー?」とリビングに入ってきた。
「ケーキ?」
「カイトにぃが昨日焼いてたの。味見したけど美味しかったよ」
「カイトはあんまり褒めると付け上がるから止めといたほうがいいよ」
「レン!なによその言い方!」
「はいはい二人とも、用意手伝いなさい」
メイコ姉さんの一言で二人とも大人しくなって、私におつかれさまと一言言ってからキッチンに消えていった。
なんだろう、とても嬉しい。朝の憂鬱さも嘘のようだし、今雨が降っていることなんて気にならない。
私の気持ちがみんなにはわかっていたのかな。
そう思っていると、メイコ姉さんは「なんだかんだ言ってみんな結構楽しみにしてたのよ」と言った。
その言葉で目鼻の辺りからみるみる熱が広がっていく。周りから見ると泣きそうな顔してるんだと思う。嬉しいけどすごく恥ずかしい。なんでこんなに心が揺れるのかわからない。
メイコ姉さんが私の方を見て困ったような顔で笑う。
「ミクもご飯食べちゃいなさい。ケーキ食いはぐれるわよ」
ケーキ食べれないのは嫌だから、深呼吸してぐらぐらしてる気持ちを抑える。何とか落ち着いてきた。急いで食べよう。でもその前に。
「みんな……ありがとう」
次:メイコとベティ
喜びたいところだけど、あんまり嬉しくない。
「やっぱり桜ほとんど散っちゃってる……」
ここ一週間くらい外に出ていて、昨日の深夜にやっと研究所に帰ってこれた。
外向きの服そのままでおふとんたんにダイブしちゃったくらい疲れていたみたいで、朝起きた後も体が重い気がする。ボーカロイドも疲労を感じるんだけど(稼働時間制限を知らせるためらしい)、なんで寝た後も疲労を感じるんだろう。意味があるのかな。
ともあれ久しぶりの研究所、みんなとお話したいなーと思って行ったリビングは無人。窓から見える桜のまばらなピンク色が寂しくて、私はため息をこぼした。
外は雨でちょっと肌寒い。雨の音は音楽のようで好きだけど、この雨でほとんどの花びらは散ってしまうんだろう。
ザーという音が響く室内、ソファでインスタントのスープを飲みながらぼんやりとテレビをつけると、ちょうどワイドショーでメイコ姉さんが出ていた。スタジオであまり音楽に関係ないような質問に答えている。録画じゃないみたいで、今日は朝から仕事だからいないのか。
メイコ姉さんが朝からいない理由はわかったけど、それにしても静かだ。リンちゃんやレンくんやカイトさん、博士や所員の人はどうしたんだろう。
コーンスープはすっかりなくなって、カップの底に溶けきらなかった粉が残る。少しお腹が空いてる気がするけど、何か探すのも億劫で、目の前のテーブルにカップを置いて、そのままソファに横になる。少し視線を動かすと桜が雨にうたれて、木の下の水溜りに花びらが浮かんでいる。
「結局お花見できなかったなぁ」
予定の日にちゃんと休みを入れたはずだったのに、突然の仕事とメンテナンス兼データ取りが入って私だけ外出、帰ってきた頃にはとうに見頃は過ぎてしまっていた。
初めての花見で楽しみにしていたので、仕事が入ったと聞いたときにはムカムカきてしょうがなかったけれど、ここまで過ぎてしまうとため息が出るだけだ。
別に桜なら今だって見れるし、他の場所でも満開に咲いているのを見た。だけど、皆で一緒に花を見て、お弁当食べて、お話して……。
「お花見、したかったな」
そう声に出すと、怒りとか悔しいとかじゃなくて、悲しいような辛いような、よくわからない気持ちになってきて、鼻のあたりがツンとして顔全体が熱くなってきた。
どうしよう、泣きそう。
こんなことでみっともないと思うと、尚更胸の辺りが苦しくなる。顔に手を当てると目から涙がこぼれてきて、尚更みっともなくて顔を両手で覆う。
「こんな、ことで……私」
涙が何度拭っても止まらない。楽しみにしていたことが、こんなにも辛い気持ちを生むことがあるなんて。
影が差し込んだ気がして目を開けると、カイトさんの顔が目の前にあった。
思わずうわっと声を上げると、カイトさんはふわりと笑って「おはよう」と一言。
どうやらそのまま眠ってしまったみたいだ。壁掛け時計を確認すると昼の一時を過ぎたところで、4時間くらい寝ていた計算になる。つけっぱなしだったテレビには女の人が男の人に詰め寄って、浮気がどうのと激しくまくし立てる。最近過激さで話題になったメロドラマだ。
「おはよう、ずいぶん疲れてたみたいだけど大丈夫?お昼ご飯いる?」
身を起こすと、朝より体が軽くなった気がする。本当に疲れてたみたい。一回伸びをして体をほぐすと正直すぎるお腹がなった。
「うん、必要みたいだね。今用意するから待ってて」
カイトさんはそう言うと台所に引っ込む。
テーブルに置いていたカップがなくなっている。たぶんカイトさんが片してくれたんだろう、後でお礼を言わなくちゃ。
窓の外を見るとまだ雨が降っていた。朝よりは弱くなっていて、小さな水滴がポツポツと地面を叩く。
何かを焼く音とともにおいしそうな匂いがしてきた。この香りは……チャーハンかな。そういえばこの前、手軽に出来るからいいよとカイトさんが話していた気がする。
ふとテーブルの下に半透明のクリアフォルダがあることに気がついた。紙と写真の束が挟まっているけど裏返しになっていて良く見えない。
「なんだろこれ」
気になる。手にとって中身を見ようとすると、できたよーという言葉の不意打ちを受けた。
「うわぁ!びっくりした」
「あ、ごめん。残り物を使った手抜きのチャーハンだけど、食べれる味だと思うよ」
そういってカイトさんは皿とスプーンをテーブルの上に置く。そして、私が持っているファイルに気がついて、ちょうど良かったと切り出した。
「それミクに渡そうと思ってたんだ。お花見楽しみにしてたでしょ?ミクが仕事してる間に桜が満開になったから写真撮っておいたんだ」
それを聞いて写真の束をを取り出して見る。何十枚もの写真には研究所の桜ばかりが映っていた。
「皆で手分けして毎日研究所の全部の桜の木を撮っておいたんだ。雨の日もあって撮りにくかったけど、なるべく同じ時間に同じ場所になってるはずだよ」
言われてみれば、確かに同じ場所から撮っている。
同じ場所からの写真には日付が入っていて並べると日ごとにピンク色が増え、そして減っていくのがわかる。私が仕事に出た4日後くらいがちょうど満開で、写真でもすごく綺麗。
でもお花だけ見たかったわけじゃない。私が楽しみにしていたのは……。
その時、三重奏のただいまーという声がした。メイコ姉さんとリンちゃんとレンくんの声だ。
カイトさんは私にご飯食べててねと言うと、玄関に迎えに行った。細切れにお帰りなさいとか買って来たよという声が聞こえる。なんだろう。
リビングに入ってきたメイコ姉さんは、テーブルに置いておいた写真を見ると満足そうな顔をしていた。
「実は私たちもミクと同じく、ここ一週間くらい予定が入っちゃってバラバラだったのよ」
「そうなんだ」
「だからお花見まだなんだ」
「そうだったんだ……でももう散っちゃってるね。寂しいなぁ」
「でも満開の桜はミクの目の前にあるじゃない?だから今日やろうと思ってるの」
「え?」
満開の桜って……写真?
「みんなで一緒にお花見しましょ。花は写真だけど、どうせこういうのは食い気優先だからいいの。ね、ミク」
メイコ姉さんは晴れ晴れしい笑顔でそう言い、下げている近くのスーパーの袋から飲み物や食べ物を取り出しはじめた。
後から入ってきたカイトさんが、「用意するね」と言って台所へ、リンちゃんとレンくんが「ケーキ冷蔵庫ー?」とリビングに入ってきた。
「ケーキ?」
「カイトにぃが昨日焼いてたの。味見したけど美味しかったよ」
「カイトはあんまり褒めると付け上がるから止めといたほうがいいよ」
「レン!なによその言い方!」
「はいはい二人とも、用意手伝いなさい」
メイコ姉さんの一言で二人とも大人しくなって、私におつかれさまと一言言ってからキッチンに消えていった。
なんだろう、とても嬉しい。朝の憂鬱さも嘘のようだし、今雨が降っていることなんて気にならない。
私の気持ちがみんなにはわかっていたのかな。
そう思っていると、メイコ姉さんは「なんだかんだ言ってみんな結構楽しみにしてたのよ」と言った。
その言葉で目鼻の辺りからみるみる熱が広がっていく。周りから見ると泣きそうな顔してるんだと思う。嬉しいけどすごく恥ずかしい。なんでこんなに心が揺れるのかわからない。
メイコ姉さんが私の方を見て困ったような顔で笑う。
「ミクもご飯食べちゃいなさい。ケーキ食いはぐれるわよ」
ケーキ食べれないのは嫌だから、深呼吸してぐらぐらしてる気持ちを抑える。何とか落ち着いてきた。急いで食べよう。でもその前に。
「みんな……ありがとう」
次:メイコとベティ
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